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ダイシン百貨店:何でもそろう超地域密着型百貨店~半径500メートル、シェア100%~
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調査事例

ダイシン百貨店:何でもそろう超地域密着型百貨店~半径500メートル、シェア100%~

2014/06/13
REPORT

東京都大田区山王、JR大森駅近くにあるダイシン百貨店というお店をご存知だろうか。大森駅西口を出て池上通りに沿って歩くこと10分程度、まさに下町の商店街というアーケード街の中に突如赤絨毯が敷かれた入り口が現れる。どことなく懐かしい、商店街の中にある地方の百貨店という雰囲気。ここが、ダイシン百貨店である。

写真1,2

 このダイシン百貨店のスローガンは『半径500メートル、シェア100%』である。お客から要望のあったものは1点・一人のためでも取り寄せ、欲しいという人がいる限り売り続ける。だからいまや普通の小売店では見かけることがなくなった、柳屋のポマードなども店頭に並んでいる。イベント時には2万人もの人が来店し、売り上げ規模は80億円ほど。数年前、このダイシン百貨店を取り上げたテレビ番組(カンブリア宮殿)やネットでの記事(日系ビジネス)を見てから1度訪れてみたいと思っていた。これまで、伊勢丹や駅ナカなど、最新のスポットについて記事を書いてきたが、今回はこのいわば逆の方向性のダイシン百貨店を取材する。

 ダイシン百貨店のスローガンは『客が望む商品は、たとえ1人の客の為にでも仕入れて陳列する』『半径500メートルの住民を100%顧客にする』である。では、どのようにこれがお店に反映されているのであろうか。

 6月の平日の11時、ダイシン百貨店1階の食品売り場にはたくさんのお客で賑わっていた。特に目立つのは高齢者。ダイシン百貨店に来る前に寄って来た同じ商店街のスーパーよりも断然高齢者が多く、印象的だったのは70・80代と思しき高齢者が多く見かけられたことである。同じ高齢者でも、普段はあまり見かけないような高齢のお客さんが多かった。また、そのような高齢の方でもカートにかごを2つ載せ、食品を大量に買い込んでいくのも印象的であった。

 売り場を見ていると、商品自体の値段は他のスーパーと大きくは変わらないか若干安い程度だが、種類が豊富なのである。驚いたので数えてみたのだが、トマトだけで30種類以上、鶏肉・豚肉・牛肉などはそれぞれ横長の冷蔵ケース一つずつ、豆腐やおつけものも大きなケース一つ分ずつもスペースを取っており、一般的なものから珍しいもの、高級品など様々取り揃えられていた。普通のスーパーでこれだけの品揃えは今まで見たことがない。郊外の大型店舗に行ってもここまでバラエティーに富んだ品揃えはないだろう。

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全てトマト

 また、所狭しと商品が並べてあるのだが、通路がきちんと確保されているのである。商品が豊富なお店にありがちな通路の狭さなどはなく、きちんとカートが通れる幅を確保してある。その分、多少商品の陳列は綺麗ではなくなるが、カートを使うお客への配慮がきちんとなされていると感じた。

 食品から続いて、店の奥のほうには日用品、薬局のコーナーがある。こちらも商品が豊富で、大型ホームセンター並みの品揃えである。いったい誰が買っていくのだろう、と思うような巨大な漬物樽から専門店で売っているようなシャンプーまで取り揃えている。故に見ているだけで面白いのである。普通のスーパーなのに、ハンズで見ていいなと思った商品がある!いつも専門店に行かなきゃ買えなかったヘアケア用品がある!なんでここにあるの!?と思うことが何回もあった。また、昔おじいちゃんやおばあちゃんが使っていたな、もしくは、地元の寂れたお店の棚にあったのを見たことがあるなと思う商品が本当に置いてあった。例えば、スモカ歯磨やタバコライオン、VALCANの整髪材、パオンの粉末毛染めなどである。ダイシン百貨店では、こういったものもきちんと商品として棚に並べ続けている。なぜなら、これを欲しいと思っているお年寄りがいるからである。

Photo 7 写真3枚

 そして、1階を見終わり、レジを通り抜けたところで、たくさんの買い物済みのカートが並べられているのを見つけた。ざっと見ただけでも20台ほど。載せられた2つのカゴにたくさんの品物が入っているのもあれば、数点だけのものもある。カウンターでは店員が丁寧に梱包をしていた。ここで、先ほど見た高齢者の大量買いのなぞが解けた。あれだけ買ってどうやって運ぶのだろうと思っていたのだが、ダイシン百貨店では3,000円以上の買い上げで品物を配送してくれるサービスがあるのだ。また、70歳以上や妊娠中であれば事前に登録をしておけば買い上げ金額に関わらず商品を配送してくれる。(ダイシン百貨店

 最近、宅配といえばネットスーパーなどがもてはやされているが、やはり商品は見て買いたいというお年寄りは多いだろうし、そもそもお年寄りにパソコンは難しい。なかなか家を出るのが難しいので1回の買い物で数日分の食料を大量に買い込んでも全て配送してくれる。また、見ていると乳児を連れた女性などもこの配送を利用していた。こうしたその地域にいて生活している人たち、すなわち高齢者や育児中のお母さんなど、電車や車に乗って外に出ることがあまりない人たちに対し便利にすることで地域に密着し、囲い込んでいるのだと感心した。

 2階は衣料と文具・本のエリアである。衣料品を見て回っていて興味深かったのは、ラックの間あいだに椅子がおいてあり、そこで80代くらいのおばあちゃんが二人座りながら楽しそうに洋服を選んでいたところである。また、フィッティングには椅子が置いてあり、60台くらいの女性と80代くらいのおばあちゃん(お嫁さんと姑さんだろう)が洋服を選んでいた。ここでも、高齢者が多いのである。そして椅子を配置するなど配慮がなされている。また、洋服もピンからキリまであり、中には25,000円の半額、というような表示がしてあるものもあり、バラエティに富んでいた。先に紹介した日経の記事の中では、柄物の洋服は1点ずつしか入荷せず、狭い地域の中で同じ服の人がいないように、との配慮がなされていると書いてあり、それが実感できた様に思う。

 2階奥には文士村馬込茶房(カフェ)とブックコーナーがある。ここに来ると都心のおしゃれな本屋のようなつくりになっており、その雰囲気の違いに驚いた。床は無垢の木張りで照明も黄色く暗め、本のチョイスもセンスを感じさせる若者向きから日用書までと狭いながら幅広く取り扱っていた。このふり幅の広さに飽きさせないなぁ!と感じた。

Photo 8 写真2枚 本や

3階は家具と家電、DYIなどのコーナーである。ここでも、ダイシン百貨店の品揃えはすごい。ホームセンターを凌ぐほどの種類の豊富さである。例えば、ペットフードは列が4つもあり、あらゆる種類が置いてあるのである。猫を13匹飼っていて月に4万円ほどペットフードをダイシン百貨店で購入している女性は、「どこより品物がそろっている、ここにくればすべて事足りるから」とのことである。(日経ビジネス)確かに、これだけたくさんの種類があるとこはあまりないだろう。圧巻の光景でもあった。

Photo 9 写真2枚 スーパー棚

 また、インテリア売り場では、70台半ばくらいの男性店員が60代くらいのジャージを着たおじいさんを接客していた。何を接客していたかというと、10万円以上するベッドである。売れないのだろうな、と思っていたら20分後くらいに見たときに売れていて驚いた。同じように、売り場の片隅に250万やら100万円やらするペルシャ絨毯が置いてあり、びっくりしたが、わたしには売れないだろうと思う商品でも売れる、欲しい人がいるから置いてあるというのはこういうことなのかと思われる光景であった。そして、高齢者の購買力の高さを感じた出来事でもあった。

そして、百貨店といえば、ファミリーレストランである。今回は4階にあるダイシンファミリーレストランでナポリタンとクリームメロンソーダを頂いてきた。これもまた昔懐かしく、いまでも子供からお年寄りまで人気、だけど最近は見かけなくなってしまった食べ物である。セルフサービス式の社員食堂か学食を思わせるファミリーレストランで、地元の人たちがセルフサービスの気兼ねなさからか、グループでおしゃべりをしていた。なんとなく、寄り合い所か温泉の休憩室のような雰囲気であった。窓からは大森の住宅街が見え、地元密着型だと感じた。

Photo 10 写真2枚 ファミレス

 地元の人に優しいサービスがもう一つあった。それは無料送迎バスである。これは、ダイシンポイントカード(アップルカード)の会員であればだれでも無料で使えるバスである。大森地域を回っており、自宅とダイシンを結んでくれる。5階にある発着所で見ていたところ、子供連れのお母さんや、70・80代のおばあちゃんなどが利用していた。

写真11 ワゴン車

 また、お店全体を通して感じたことは、接客対応のよさとスピードのゆっくりさである。お店を回っているとき、何回か商品説明をしている場面に出くわしたが、どの人も丁寧に説明していた。たとえその賞品が200円の排水溝のごみネットでも、商品の違いを説明し、お客さんのニーズを聞き取っていた。そして、高齢者が多いからか、店員もお客さんもゆっくりなのである。これは居心地の良さを感じた点である。

 今回、訪問してみて分かったことは商品の豊富さ=楽しさや安心感がある、ということである。

ダイシン百貨店には本当に様々なものがおいてあるのである。売れ筋から死に筋まで。わたしが今回訪れてみて興奮したように、訪れるお客は売り場で常に新しい発見があるだろう。そして、行き馴染んだお客にとってはあそこに行けば何でもある、という安心感を与えていると考えられる。つまり、これは顧客化=ファン化に成功しているのである。

これは、都心の最先端を追いかけ、大量のものを売るというモデルとは全く逆である。しかしながら、これから高齢化が進み、より地域に根ざしたサービスが必要になってきた時、価値を見出されていくだろう。

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