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2018年02月09日

《 CreatorによるMarket Creation 》 #004 竹馬 靖具さん 後編

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   竹馬 靖具  (映画監督)

1983年栃木県足利市生まれ。役者としての活動を経て、2009年、自身が監督・脚本・主演を務めた映画「今、僕は」を発表。国内外の映画祭で好評を得て、東京では8週間以上のロングラン上映を記録。2011年、脚本で参加した真利子哲也監督「NINIFUNI」は、テアトル新宿で劇場公開後、第64回ロカルノ国際映画祭に招待上映される。「蜃気楼の舟」が長編2作目の監督作品。第50回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭フォーラムオプインディペンデントコンペティション正式出品。第26回シンガポール国際映画祭正式出品。


インタビューの前半では、竹馬靖具さん2作目の監督作品『蜃気楼の舟』の作品テーマなどを中心にお話を伺いました。後半では、作品公開に至るまでの経緯や、今後の映画製作についてお話を伺います。 

インタビューの前半はこちら からご覧になれます。


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– – 竹馬さんが23才のときに製作された初監督映画『今、僕は』は、数十万円の予算で撮られた自主製作映画ということですが、この作品を、まず始めに海外の映画祭に出品したのは何故でしょうか?

竹馬さん(以下略称) : 作品ができた時は、自信がありましたね。7人くらいの役者とスタッフが週末に集まってハンディカメラで撮影した、まさに「自主映画」だったけど、やっぱりあの時にしか出せないパワーがあったと思うし、いろんな人に観てもらいたかったんです。ただ、当時は邦画がどれも画一的に感じられて、国内で自分の作品が評価されるとは全く思えなかったので、まずは海外に出そうと思いました。無知だからできた事だとは思うけど、当時は本気で、カンヌの新人賞を取ろうと思ってましたね(笑)。国際映画祭の窓口に作品を持って行き、カンヌの人が来たら観せて下さいってお願いしていて、結局カンヌはダメでしたが、そこがきっかけで幾つか海外の映画祭に出品が決まり、その後日本でも公開する事が出来たんです。

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– – 2作目の監督作品として公開された『蜃気楼の舟』は、多様なシーンが緻密に作り込まれ、ハンディカメラで撮られた前作から印象が大きく変化していると感じます。製作の現場ではどのような変化がありましたか?

竹馬 : 多い時で100人近い関係者が現場に居て、ロケもほとんど東京以外だったので、前作とは規模とかやる事が全く違っていましたね。やっぱりこの脚本を実現するためには、プロの撮影とか専門的な機材が必要で、それに伴った製作体制が不可欠だったんです。日本各地で撮影を進めるため、役者やスタッフに他の仕事の合間を縫ってもらいながらスケジュールを調整して、飛び飛びで1年間の時間をかけて撮影を進めました。最初に考えていたイメージをそのまま撮影出来ない事も多かったので、編集にはさらに1年半の時間をかけ完成させています。脚本の段階でイメージがはっきりとあって、そこには確かな自信があったのですが、それを作品として最良の形に落とし込むまでには、結果として前よりもかなりの時間が掛ってしまいました。

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– – この作品には、田中泯さんをはじめとするベテランの演者や、第一線の撮影スタッフが多く参加されていますが、インディペンデントな製作体制の中で、キャストやスタッフの確保はどのようにされたのでしょうか?

竹馬 : 脚本のイメージに沿ってキャスティングなどをお願いしてますが、通常の国内映画よりは遥かに低予算でした。こういう内容の作品を、こういう予算と撮り方で進めていきますという所も踏まえてオファーを出し、本当に企画や脚本の内容に賛同していただいて、個人の意思で参加してもらえたと思います。『今、僕は』を観たことがきっかけでこの作品に参加してくれたスタッフやボランティアもいたので、そういう意味では作品が人を引き寄せてくれて、実現することが出来たのかもしれません。

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– – 日本での封切り前に、『蜃気楼の舟』はチェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でプレミアム上映され、その後シンガポール国際映画祭に正式出品されています。海外出品に向けた対策や、国内での興行に際しての凱旋や話題作りといった狙いはあったのでしょうか?

竹馬 : そういう対策はあまり考えないようにしていますし、今は日本と海外を別々に考えていないですね。海外を意識して無理にオリエンタリズムを強調したら日本人に届かない狭い作品になってしまうし、逆に国内の市場だけを見ていたら海外の人に届かなくなると思うんです。以前は海外で作品を認められたいという思いもありましたけど、今はただ、いろんな人達に観てもらいたいという思いで、作品を世界に出していきたいと思っています。映画は博打みたいなものですけど、次が出来たらまた、海外には出したいですね。

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– – 『蜃気楼の舟』の公開を終えて、次回作の構想や、今後の目標などはありますか?

竹馬 : 『蜃気楼の舟』みたいなやり方は、もうこの作品で最後でしょうね。次はまた違ったやり方をすると思います。今構想している長編の一つは自主映画の規模では出来ないので、始めにパイロット版を制作するとか、今までと全く違う作り方をしなくてはいけない事になると思います。正直、現時点ではどう実現させたらいいか全然わかんないですけど、始めにこういう方法やスタイルをやりたいというよりも、これまでやったことのない規模で、新しい表現に挑戦していきたいと思っているので、まずは今の自分が本当に撮りたいと思える脚本を書き上げて、それに合わせてやるだけです。

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– – 竹馬さんが目指す映画を実現するためには、日本国内では予算などの困難が大きいように思います。今後、制作の拠点を海外に移したり、海外での映画制作を考えたりはしませんか?

竹馬 : もしかしたら映画制作を取り巻く環境や、表現の多様性という面でも、海外の方が恵まれている側面はあるのかもしれないですね。ただ日本は自分が生まれ育った場所ですから、こだわりや愛着があるのかもしれません。外国人の俳優を使ってみたいとは思うけど、今はこの場所で、作り続けていこうと思っています。確かにお金も厳しいし現実は容赦ない。映画作りで上手くいかない事は山ほどありますけど、自分が生きている今の時代を映すと同時に、それを超えて人の内奥や真理を照らし出す美しい映画を撮っていきたいです。まずは映画を撮り続ける事が、大前提ですね。それが出来てこそ、その理想に一歩ずつ近づいて行けるので。

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「囲い屋」というデストピア的な設定をきっかけにして描かれる竹馬監督の『蜃気楼の舟』は、映画の中に現代を映し出すと同時に、日常的な言葉や物語を超えた感覚を捉え、観る者に届けるために、その表現が形作られているように思います。観客の主観的な映画体験の中に非日常的な感覚の再現を試みる独特な映像の表現は、作り手が自らの映画体験で見出した「普遍性」に触れる感覚を伝えようとする試みでもあり、そういった、言葉での説明が困難な感覚を伝える事こそが、竹馬さんの考える映画の価値であり、製作の意義なのだと思います。

既存の映画ジャンルや市場性を前提にするのではなく、観る人一人ひとりの感受性に向けて作られた作品は、しかし決して小規模な観客に向けた表現ではなく、国を超えた、多様な人々に向けて作品としての価値を問うています。クラウドファウンディングや映画祭などを通して徐々に支持を集め、社会との繋がりを獲得する竹馬さんの映画は、今後はまた違った題材によって、自身が感じる時代性と、それを超える感覚を、多くの観客に向けて伝えていくのではないでしょうか。時代を超える程のインパクトを持った新しい映画作品は、現実を生きる多様な他者の一人ひとりに対して、価値ある体験を届けたいと願う、作り手のイメージを起点にして、生み出されるものなのかもしれません。(渡邊)


インタビュー / 構成 : 渡邊 陽平

㈱スガタリサーチでマーケティングの業務に携わりながら、ファインアートの市場で絵描きとしても活動中

写真撮影 : 磯崎 威志 (Focus & Graph Studio


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