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2016年07月20日

《 CreatorによるMarket Creation 》 #003 淺井 カヨさん 前編

個人規模でユニークな活動を展開するクリエイターにお話を伺い、彼らの創作や活動内容についてインタビュー形式で紹介しています。市場動向をピックアップして紹介する「マーケティング Eye Watch」の番外編として、不定期で掲載しています。

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淺井 カヨ  (日本モダンガール協會代表)

大正六十五年(昭和五十一年)名古屋生まれ。愛知県立芸術大学デザイン・工芸科 デザイン専攻卒業
平成十九年「日本モダンガール協會」を設立。日本の大正末期から昭和初期の「モダンガール」と、その時代についての調査、研究、催事、展示、執筆、講演会等を行うだけでなく、昭和初期の住居で暮らし、氷を入れる方式の冷蔵庫を実際に使用するなど、装いから暮らしまで生活の実践も行っている。

【 日本モダンガール協會 】https://mogakyokai.com/
【 モダンガール復興計画 】https://projectmoga.jugem.jp/
【 週刊モガ 】https://moderngirlkayo.blog.shinobi.jp/


『 恰好だけを必死に眞似てみても、分からないことや 知りたい事が 出るばかりでした。』

今から約90年前に流行した日本のモダンガール 『モガ』 のファッションを普段着にして日々の生活を送っている淺井カヨさんは、大正から昭和初期にかけての時代研究を行う専門家としての一面を持っています。モガに憧れて、もっとよく知りたいという思いからその時代背景についても調べ始めたという淺井さんは、当時の書物や文献を紐解くだけではなく、自宅の家具や雑貨に大正昭和の骨董品を取り入れて、生活様式も含めた私生活のほぼ全てに当時のものを当てはめる暮らしを送っています。モガが生きた時代を追体験することで理解を深めるという彼女の徹底した探求のスタイルは、過去の歴史様式を学問的、客観的に理解する事以上に、体験を通じて、モダン時代の実感を得る事に向けられているように思います。

自ら「日本モダンガール協會」を立ち上げて調査研究を続ける淺井さんは、モガとその時代を展覧会や執筆などで現代社会に向けて表現する活動にも精力的に取り組んでいます。大学や公的な歴史の研究機関に所属するのではなく、あくまでも個人の立場で社会と対峙して、過去の実感を伴った視点から現代を見つめる彼女は、ご自身の経験則も含めた時代と様式の理解をどのように表現し、現代の人々と分かち合っているのでしょうか。淺井さんが行う様々な活動について、お話を伺いました。


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– – 淺井さんはモダンガール「モガ」とその時代についての研究や様々な情報発信などをされていますね。この時代に興味を持ち、情熱を傾けるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

淺井さん(以下略称) : 最初のきっかけは、モガのファッションでしたね。大正や昭和初期の挿絵や写真にある洋装の女性像に魅かれて、自分でもこのような格好がしたいと思いました。始めは当時と似た形の古着などを合わせてそれ風に見せていたのですが、骨董屋で本物のモガのドレスに触れたときに、これは本当にいいものだというのが実感として分かりましてね。それから徐々に当時の骨董などにも興味を引かれるようになり、モガとその時代のことを追求したいと思うようになっていました。

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– – ご自身が日常的にモガの服装で生活するだけでなく、当時の衣装を現代に復刻して、ギャラリーなどで展示・販売されていますね。復刻の活動は、どのような経緯で始められたのでしょうか?

淺井 : モガのファッションに興味を持って着たいと思っても、そのための衣装が現代の市場に見当らないというのが一番の理由です。骨董品の衣装は希少ですし、後世に資料として残さなければいけませんので、着つぶしてしまう事は絶対にできません。現代に作られた服の中にもモガ・モボの装いと謳った当時風のものを見かけますが、私の目から見ると、これのどこがモダンなのか?と思ってしまうものが殆どです。ですから自分が求める物を復刻して新しく作るしかなかったんですね。最初は個人で仕立て屋などに発注して作っていたのですが、活動を続ける中で私以外にもモガのファッションに魅力を感じ、欲しがっている人が沢山いる事が徐々に分かってきましたので、プロの服飾作家さんと協力して、復刻したものを展覧会で販売する事を始めました。

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– – 展示では、幅広いアイテムを5人の服飾作家さんとの共同で復刻し、展示販売されています。これらはどのような手順で復刻されているのでしょうか?

淺井 : 服飾作家さん達は、普段はそれぞれ個性的な創作をされている確かな技術を持った方々です。私は洋裁が下手なので、プロデューサーを勤めます。各作家さんにワンピースや帽子、レースといったそれぞれの得意分野で復刻に当たっていただき、作家の個性は抑えてもらっています。帽子を復刻していただいた作家さんは当時の資料を所持していましたのでそのままお願いしましたが、基本的には私から各作家さんに資料や文献を説明して、また現存する当時の服から型紙を起こしてもらうなどして、必ず歴史資料に基づいた復刻を行っています。


– – ワンピースや帽子といったモダンガールらしいアイテム以外にも、当時の下着類を数多く復刻されています。表に出ないインナーも、モガのファッションには必要なのでしょうか?

淺井 : 当時のワンピースなどは基本的に裏地がありませんので、服の形に合わせたスリップを着けることが一般的です。服の形をきれいに見せるためには、それに合わせた下着が必須だったのですね。ただそれだけではなく、例えばガーターでしたら、体のラインを矯正するものと靴下吊りが別々にあって、出かける場所や時間帯によって使い分けていましたし、また、乳カバー(ブラジャー)は女性の胸を強調するというよりは、どちらかというと抑えるものでした。復刻・展示をする際には、そのような現代と違う当時の文化や習慣も再現して紹介したいという思いがありますので、そのためにも下着の復刻は重要です。ただ珍しい物を売りたいというのではなくて、当時の暮らしを知ってもらう意味合いも大きいです。


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– – 現代のお客様に向けて制作・販売する上では、特にどのような事を意識されていますか?

淺井 : 復刻に使用する生地は、現代の布の中からなるべく当時に近いものを選んでいるのですが、ワンピースなどはシルク生地を使って細部まで忠実に作ると、どうしても高価になり過ぎてしまう場合があります。一点物として忠実な復刻も制作しますが、より多くの方に手にとっていただくために、綿の素材を使い、複雑な襟の形を様式の範囲で簡略化するなどして、比較的安価で複数生産しやすいものも販売しました。同様に、私が所有している革でできたやや高価な当時のマスク「カラスマスク」を復刻する際は、現代のマスクと同じガーゼのような布地を使って、安価で汎用性が高くなるように工夫しています。こちらは私がコラージュして当時風の商品箱を再現して、手に取りやすい形で販売しました。現代のお客様に向けて様々なアレンジを加えますが、ただ、そのような変更を加えた際は必ず、どのような物をどのような意図で復刻したかの背景説明を加えて、販売するようにしています。


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– – 復刻の際に、古い布地を材料に使って当時の様式を再現するという選択肢もあるかと思うのですが、淺井さんの復刻では多くの場合、現代の新しい生地が使われています。生地についてはどのようなこだわりがあるのでしょうか?

淺井 : 以前はビンテージの布を素材に使って当時の雰囲気を再現することも試みましたが、やはり現代で復刻する以上は、下ろしたてのように新しい仕上がりを求めるべきだと考えています。当時の服の習慣や考え方、技術を守りながら、それを現代の商品として形にする事で、多くの人に興味を持ってもらう方向を探していきたいと思っています。それによって過去の様式が見直され、次の時代に繋がるのではないかという希望を持っています。


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– – 展示の売り上げや、お客様の反応はいかがでしたか?

淺井 : やはりワンピースなどは人気が高いですね。よく売れましたし、受注も沢山いただきました。ただ、復刻したものを販売しても売り上げは作家さんに行くので、私はほぼ無償でやりました。やはり私自身の大きな目的として、当時の事を実践しながら理解して、それを多くの人に伝えたいというのが一番にあります。現代の服飾を学ばれた作家さんと一緒に復刻の仕事をする事で当時の縫製や洋裁資料に対する専門家の解釈や視点を知ることができますし、また、当時のファッションに興味があって着てみたいけど何処で手に入れたらいいかわからないという方に、資料の紹介や良質な商品の提供ができますから、お金にならなくても、私自身はプラスだと感じています。

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– – 淺井さんご自身の研究や資料の購入、生活の実践にかなりの費用が必要だと思うのですが、研究資金や生活のための収入はどのように確保されているのでしょうか?

淺井 : 近年は復刻したものを映画やドラマ等の衣装や小道具として貸し出す事をしていますし、講演会などに呼ばれて復刻の事や当時の暮らしを紹介して講演料をいただく事もありますね。テレビジョンへの参加や取材でお金をいただくこともあります。ただやはり現状では、それだけで全てをまかなうのは難しいですね。
結婚前は事務員をしていましたので、基本的な収入は事務員としていただくお給料です。大正時代の職業案内などを見ますと、タイピストやカフェーの女給さん、女事務員というのが女性の仕事として求人されています。タイピストは現代では募集されていませんし、カフェーは面接で落ちましたので、事務員が私に向いていました。女事務員として働きながら職業婦人として生活するのも、当時を知るための勉強です。私にとっては、全てが当時の実践なのですね。

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インタビュー / 構成 : 渡邊 陽平

㈱スガタリサーチでマーケティングの業務に携わりながら、ファインアートの市場で絵描きとしても活動中

写真撮影 : 磯崎 威志 (Focus & Graph Studio

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