連載企画年代別分析3回目となる「固有の価値観の理解」後編:では、ターゲットとする35-44歳男性の「現在の固有の価値観・生態」を理解することを目的とし、現在の彼らがどのようなライフスタイルを形成し、日々の生活を行っているのかを前編に続き、④「職業観」⑤「メディア接触態度」⑥「自分」の側面から考察を行った。
【職業観:収入なくても、やりたいことが出来ればそれなりに満足】
彼らは、稼ぐことよりも自分が満足できるやりたい仕事をしたいといった、収入が低くても、自分の個性や特技を生かせるナンバー1ではなくオンリー1の仕事を求める人が多いとされる。
昨今の地方移住者には特にこの年代の男性が見られやすく、彼らは、国、子供、次世代のために何かをやり遂げたいというマインドが強く、儲かりはしないが課題が多く自らの力を発揮できる機会が多い地方再生という分野にやりがいを感じている。
彼らは、団塊世代の両親からの「勉強すればいい会社に入れる」との言葉を信じて華やかな未来に向けて邁進してきたにも関わらず、バブル崩壊や就職氷河期に直面するなどの挫折経験者である。
そのため、自分が頑張ってもどうにもならず、努力が報われない体験を通して、彼らより上の年代が有していた一流企業で一生安泰といった会社や労働に対する価値観とは異なる職業観を有したものと思われる。
参考: https://biz-journal.jp/2015/02/post_9049.html
https://blog.goo.ne.jp/toip_hokkaido/e/0b8209d10a2e50d60152c60297896047
https://www.sankei.com/premium/news/141207/prm1412070007-n1.html
【仕事の姿勢:コツコツ努力家タイプと控えめタイプ】
この年代の男性は人口数が多く、子供の頃から競争環境の中で育ってきたために、目標を見据えてコツコツと頑張ることが得意と見られる。
そのため、仕事に対しては堅実で着実に業務をこなす努力家タイプが多いとされる。
この年代の有名人一例
スポーツ
・中田英寿(サッカー):1977年生まれの38歳
・松井秀樹(野球):1974年生まれの42歳
・イチロー(野球):1973年生まれの43歳
・貴乃花(相撲):1972年生まれの44歳。
芸能
・中居正弘(SMAP):1972年生まれの44歳
・木村拓哉(SMAP):1972年生まれの44歳
経済
・藤田晋(起業家):1973年生まれの43歳
・堀江貴文(起業家):1972年生まれの44歳
その一方で、子供の頃から自分専用の個室が与えられ、TVアニメやゲーム、漫画と供に一人の世界に没頭してきた彼らは、周囲とのコミュニケーションに苦手意識を有しやすく、他人に嫌われたくないなど空気が読めないことに対して敏感である人が多いものと見られる。
そのため、自分の立ち位置を気にして及び腰になりやすく、目立つことも避けようとすることから、仕事に対しての出世欲は薄く、自己主張を控える人が多いのもこの年代の男性の特徴の一つとも言える。
参考:https://wol.nikkeibp.co.jp/article/special/20100326/106452/?P=3&n_cid=nbpwol_else
https://www.dir.co.jp/consulting/theme_rpt/human_rpt/20141016_009037.pdf
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2302T_T20C13A4000000/
【メディア接触態度:TVもインターネットも母国語】
この年代の男性の主な利用メディアはTVであり、平日では平均2時間以上、休日では平均3時間以上視聴されている。また、彼らの7割以上がパソコンやスマートフォンを有しており、インターネットも平日、休日ともに1日平均1時間半以上利用されている。
子供の頃にTVアニメの発展とともに育ち、社会人を迎える頃にはインターネットが一般的に使用されるなど両メディアとの接触機会が多い彼らにとって、両メディアに対する親和性の高さは当然のように思われる。
そのような彼らの中には、インターネットサービスにビジネスの可能性を見出したミクシーの笠原健治氏や2ちゃんねるの西村博之氏など1976年前後に生まれた「76(ナナロク)世代※」と呼ばれるIT起業家も数多く見られる。
※76(ナナロク)世代は、小学生の頃にファミリーコンピューターに出会い、思春期にはレコード・カセットテープがCDへ移行し、大学入学時にはWindows95が脚光を浴び、就職時にはインターネットを経験するなどアナログ環境からデジタル環境への転換期を体験してきたことで、両環境への理解や適応力が高いとされる。また、彼らは利益優先主義とは異なり、周囲に惑わされず、自分の夢や価値観を実現することに忠実であろうとする人が多いとも言われる。
ナナロク世代一例
1975年
・笠原健治(mixi)
・近藤淳也(はてな)
1976年
・ 西村博之(2ちゃんねる)
1977年
・ 田中良和(GREE)
1978年
・内藤裕紀(ドリコム)
参考: https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000028.html
https://toyokeizai.net/articles/-/28892
https://www.sankei.com/premium/print/141123/prm1411230018-c.html
【メディアの使い分け:もう一歩の後押しには生の声】
この年代のメディア利用の使い分けとして、TVは「いち早く世の中のできごとや動きを知る」ために利用され、インターネットは「趣味・娯楽に関する情報を得る」ために採用されやすい。
その一方で、消費関連の情報収集に関して、「大きな買い物をする場合、その分野に詳しい友人が一番頼り」や「大きな買い物をする場合、買った体験者の話が一番便りになる」と考える人が多いなど、信頼出来る友人や知人からの口コミを重要視する一面も伺える。
彼らは、経済が右肩上がりの時代とともに裕福な生活を過ごしてきたことから、自身は豊かな生活を維持したい気持ちが強いが、バブル崩壊による突然の雇用崩壊や給料の不安定な危機的状況も体験している。
そのため、無計画な浪費に対する危険意識が働きやすく、彼らの消費に対する意思決定には自身が信頼・納得できる生の情報を重要視していると考えられる。
参考:https://www.soumu.go.jp/main_content/000357569.pdf
https://www.jresearch.net/house/jresearch/vr/index.html
【悩み:終わらない自分探し】
この年代の人達はサッカー元日本代表の中田英寿選手や元総合格闘家の須藤元気選手の例に見られるような突然、離職や休職を申し出て海外留学・旅行を行う人が多いなど「自分探し好き」が多いことで有名である。
彼らは、好景気の時代に生まれ、高学歴を取得すればよい会社に勤められると自身に言い聞かせながら頑張ってきたにも関わらず、就職時期をむかえたとたんに就職氷河期に直面したことで今まで築いてきた努力が報われなかった年代である。
そのため、今まで信じ続けてきたものを失った結果、これから先に何をするべきかが見出せず、人生の答えを追い求めるための「自分探しの旅」に新たな希望を持ち始めた人が増えたものと見られる。
参考:【書籍】たった1冊で誰とでもうまく付き合える世代論の教科書
【書籍】自分探しが止まらない
https://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20130729/1051118/?P=3&rt=nocnt
【楽しみ:終わらないガンダム愛】
元ライブドア取締役の榎本大輔氏(1971年生まれ44歳)が自身の宇宙旅行計画実施に向けて、宇宙でやりたいことの一つにガンプラ作りを挙げていたように、この年代の男性達は言わずもがなガンダムの熱狂的なファンである。
彼らの思考にはガンダムイズムが浸透しており、現実の人間関係がガンダムに見られる登場キャラクターに置き換えられることや、作品内の台詞が彼らの「公用語」として使用されることは彼らの日常では珍しくない。
堅実消費志向が強いと見られる彼らだが、ガンプラやBlue-rayボックスに始まり、ガンダムをコンセプトに置いた各種イベントやビジネス書籍、豆腐や携帯電話、車などの関連製品やサービスに対する興味の視線は他年代の男性と比べて郡を抜いて強い。
そのような彼らにとってガンダムと向き合う時間は大人になった彼らがふと我を忘れて子供に戻ってしまう、ノスタルジックな感覚が働きやすい世界であるものと思われる。
参考:https://toyokeizai.net/articles/-/27730
https://diamond.jp/articles/-/9266
前編・後編を通じて見えたこの年代の男性のライフスタイルや価値観を今一度整理してみた。
・ファッション①:コスパのよさと自然体
・ファッション②:個性が生える限定品
・食事:外食大好き、油物大好き
・住居:家族との交流が大前提
・趣味:ガンダムは永遠の友達/ゲームは一生の娯楽
・ 家族:自身を肯定できる環境が大事
・結婚:したいけど出来ないし、したくもない
・ 職業:収入なくても、やりたいことが出来ればそれなりに満足
・姿勢:コツコツ努力家タイプと控えめタイプ
・ メディア:TVもインターネットも母国語
・意思決定:もう一歩の後押しには生の声
・ 悩み:終わらない自分探し
・楽しみ:終わらないガンダム愛
この年代の男性に有効であると見られるマーケティングアプローチは以下3つの方向性が考えられる。
1.個性や自己肯定感の訴求
2.納得させる合理的な理由の明確化
3.世代を越えた懐かしさの共有
【アプローチ1:個性や自己肯定感の訴求】
今までにない生活価値観の多様化や個性化を求めた彼らの両親である団塊世代の影響や、世代人口数の多さが与えた競争環境は、彼らに自分らしさを追求させ続けてきた。
そのため、SMAPの「世界に一つだけの花」に見られるナンバーワンにならなくてもいいが、特別なオンリーワン願望を満たしてあげるような自己肯定感のサポートに繋がるアプローチがこの年代の男性には共感が持たれやすいものと推測される。
【アプローチ2:納得させる合理的な理由の明確化】
モノが満ち溢れる好景気時代に育った彼らはモノに対する執着が弱いことに加え、バブル崩壊や就職氷河期に見られる不安定時代の経験が彼らの堅実消費志向を強めている。
そのため、保険の窓口に見られるような価格に見合う製品やサービスのベネフィットがダイレクトに伝わりやすいアプローチが彼らの「納得」を促しやすいものと思われる。
【アプローチ3:世代を越えた懐かしさの共有】
漫画やTVアニメ、TVゲームの発展とともに育ってきた彼らの娯楽コンテンツに対する愛着は今尚強く残り、当時を彷彿させるモノへの関心が非常に高い。
そのため、ガンダムやキャプテン翼、タッチなどに見られる、かつての連載後の成長を描写した新シリーズの展開は、父親となった現在の彼らにとって、世代を超えて懐かしさと新鮮さが共有できるコンテンツとして関心を惹きやすいものと推測される。