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2014年04月25日

今、再び寅さん

東急ハンズが昨年6月に実演販売選任チーム「ヒント・ショー スタッフチーム」を立ち上げました。東急ハンズは、ここ数年、ネット販売に客を奪われ、売り上げが減少傾向にあるそうです。先日、テレビ番組の「ガイアの夜明け」で、この「ヒント・ショー スタッフチーム」が取り上げられていました。そのテレビ番組の中で、「ヒント・ショー スタッフチーム」の加藤 融(あきら)氏はこのように話しています。

『昔の市場の楽しみを今の社会が忘れかけていると思う。店頭に来る楽しみというものをお客様に感じて頂きたい』

私は、このドキュメンタリーを観て、実演販売について興味を持ちました。そこで、実際に実演販売を行っている現場に赴き、実演販売について探ってみることにしました。

■実演販売とは

街頭や店頭で巧みな口上を操りながら、通りすがりの人の前で実際に商品を扱い、商品を説明しながら売っていく販売形態のことを指し、広義では的屋も実演販売に当たります。商品や道具を置く台の奥(隠語で売台と呼ばれる)に立ち、客を相手に対面しながら販売を行うことが多いとのことです。Source: Wikipedia 「実演販売」

今回、検証した現場は、志村商店(上野~アメヤ横丁)、東急ハンズ(新宿)です。それぞれ30分程度現場に張り付き、販売の様子を窺ってみました。

写真1-1アメ横写真1-2 志村焦点 写真1-3 お菓子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■志村商店(上野)

検証した日:2014年4月12日(土)15:00頃~

取扱商品:チョコレート菓子

商品を実際に買った人の傾向:20代~30代の若い男女や、小中学生の子連れの母親や父親

 

今回訪れた志村商店は、上野のアメヤ横丁(通称=アメ横)にあります。アメ横は上野駅から御徒町までを結ぶ山手線の高架橋と高架下に沿った商店街で、主に魚介類や乾物系のお店が数多く軒を連ねています。志村商店は、国内外のメーカー菓子をアウトレットしているお店です。チョコレートのたたき売りが有名でちょくちょくテレビにも取り上げられています。また、魚介類や乾物系のたたき売りをしているお店は数多くありますが、アメ横でお菓子を専門に、たたき売りをしているのは、私が調べた限り、志村商店だけでした。志村商店に着くと、お兄さんが一際高い壇上に立ち、テンポの良い口上を述べながら、レジ袋にこれでもかというほどチョコレート菓子をポンポン入れ始めました。

「入れちゃえ!入れちゃえ!入れちゃえ!1000円!なくなったらごめんなさい!1000円!」

口上が終わったころには、チョコレート菓子が入った袋はパンパンにはち切れそうなほどになっていました。志村商店の商品を買ったお客のほとんどが、このたたき売りの袋詰めを買っていました。中には、一度買ったにも関わらず、数分後に戻ってきて、ちょっと照れくさそうにしながら、連れの友達の分まで買い求めている20代くらいの男性もいました。また、小学生くらいの子供に1000円札を握らせ、子供に買わせている親御さんも目立ちました。たくさんのお菓子が入った袋を手にした子供たちは、すぐに袋の中を見て、何が入っているのか、真剣に吟味していました。

志村商店の口上で、工夫がされているなと思ったことが1点あります。それは、『距離』を縮めさせる、きっかけ作りです。実演販売士として有名な吉村 泰輔(よしむら たいすけ)氏の主張によれば、通行人が⇒ただの見物客⇒(商品を買ってくれる)消費者になるためには、『距離』が非常に重要とのことです。文化人類学において、人間は120㎝以内に入らないと、心をオープンにしないといわれています。通行人が⇒見物客⇒消費者になるための絶対条件は、売りを行っている人と、お客の『距離』が120㎝以内に来ることだといいます。

では、志村商店の口上には、どのようにお客との『距離』を縮めるための工夫がされているのでしょうか。それは、「客と繋がり(連帯感)を作る」、「近づくことに理由をつける」という2段階の行為が、お客が売り手との『距離』を縮めさせるためのきっかけを起こしやすくしていることだと思われます。

まず、売り手が「①テレビで観たことある人手を挙げて!はい!」と言ってお客に手を挙げさせます。①で実際に観たことがなくてもいいので、お客に対して手を挙げさせます。手を挙げさせることによって、売り手とお客の間に繋がり(連帯感)が生まれ(一方的なセールストークではなくなる)、話を聞いてもらいやすくなる環境を作り出します。

次に、「手を挙げた人、前に来て!テレビを観た方には、ベルギーのチョコレートをさらにおまけ!」と言って、①で手を挙げたお客に対し、手招きしながら、近くに来るように話しかけます。これがもし、①のような前置きもなく、急に「もっと前に来て!」と話しかけても、お客は「近づいたら何をされるのか不安」という警戒心から、なかなか寄り付かないのではないでしょうか。そして、何で前に行くのかという行動理由(この場合、おまけがもらえるという理由)を与えることによって「近づいたら何をされるのか不安」という警戒心を解き、素直に近づきやすい心理状況(環境)を作り出しているのではないでしょうか。120㎝以内という『距離』を縮めるには、この2段階のプロセスが見物客から消費者に変える、重要な要素となっているのではないでしょうか。

 

写真2-1 実演販売後姿 写真2-2文具 写真2-3 モニター募集

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■東急ハンズ(新宿)

検証した日:2014年4月12日(土)17:00頃~

取扱商品:モジライナー(文具)

商品を実際に買った人の傾向:小学生の子連れの父親や母親

 

今回訪れた、新宿の東急ハンズには、各階にひとつくらいの割合で、「ヒント・ショー」のブースが設けられていましたが、どのフロアの「ヒント・ショー」も人が集まっておらず、閑散としていました。しかし、最上階の文具用品売り場の「ヒント・ショー」のスタッフのところには、そこそこお客がついていました。この日、取り扱っていた商品は、PLUSが出している「モジライナー」でした。「モジライナー」は、修正テープのような作りになっていて、文字の上をなぞったりすると、クレヨンで描いたような色が蛍光ペンのように付けられるというものです。中にはデコレーションシールのようなデザインのものもあり、色やデザインを替えるには、カートリッジ(交換テープ)を替えるだけでOKという商品でした。商品を購入したほとんどが、小学生くらいの女の子をつれた親子組でした。子供がすぐに興味をもち、立ち止まったのに合わせて、親も商品を覗き込むという姿が見受けられました。親が、時々子供の反応を窺いながら、スタッフに商品のレクチャーを受け、最終的に子供の判断に合わせて買う方が多いようでした。

志村商店と東急ハンズの「ヒント・ショー」の違いとしては、志村商店の場合は、お客が商品を買うのに2~3分程度の時間しか要さなかったことに対し、東急ハンズの「ヒント・ショー」では、一人当たり5分~10分は時間を要しているということでした。志村商店の場合は、その場でなくては買えないものであり、そのタイミングを逃したら買えないかもという気持ちや、他の人に買われてしまうかもしれないという競争感を芽生えさせています。そのため、よくよく吟味して買うというよりは、即決買いのような状況になっていると思われます。

これに対し、東急ハンズのお客は、その商品を目的としていないお客が来ています。つまり、その場であえて買わなくてもよい状況の人たちなのです。そのような人達に、その場で「欲しい」と思わせるには、その商品を使うことによって、どんな体験や経験ができるのかという、具体的な姿を想像できるような「ヒント」を提案することが必要だと思われます。例えば、店員からペンを進められたとします。書きやすい、使いやすい、発色が良い、という商品属性(attribute)だけでは、買う決定打には至りません。具体的に言えば、簡単に縁取りができるペンを使って、友達へ送る手紙をかわいく作っている自分の姿だったり、会社で、どれだけマーカーを引いても色合いが変わらないペンを使ってストレスなく仕事をしている自分の姿(Functional benefits・Emotional benefits)など、商品の機能、性能だけではない、商品を使うことによって得られる幸福感や楽しさ、面白さという付加価値要素がなければ、「買う」までには至らないのではないのでしょうか。先ほど述べた、5分~10分という時間は、この付加価値要素である、どんな体験や経験ができるのかという、具体的な姿を想像させるために必要な時間なのかもしれません。

東急ハンズがチーム名を「実演販売チーム」とせず、「ヒント・ショー スタッフチーム」としたのは、お客が求める付加価値へつながる「ヒント」を提案する意味をこめているのかもしれません。

近年、ネット販売に押され、実店舗での売り上げに伸び悩んでいる企業は、東急ハンズだけではないことは、予想されます。しかし、今後、販売は、実演販売のようなものとネット販売のようなものに二極化していくのではないでしょうか。通常の対面販売をしているスタッフの多くは、実演販売のスタッフに比べれば、ひとつひとつの商品に対しての知識が乏しかったり、お客を納得させるだけの提案力が乏しいと思われます。ゆえに、通常の対面販売は価格競争力が高く、また利便性に勝るネット販売に移行していくのではないのでしょうか。これとは対極に顧客が気がつかない付加価値を顕在化させる実演販売は脚光を浴びていくのではないでしょうか。

逆にネット販売に、実演販売の要素を取り入れることは可能でしょうか。例えば、「スマートフォン」についている「コンシェルジュ」のようなサポートであったり、「iOS」向けの「siri」のようなパーソナルアシスタントサービスがもっと進化すれば、お客はわざわざ実店舗に足を運ぶことなく、実演販売で購入するときのような満足感を得ることができる可能性があるます。

将来、ネット販売と実演販売の行方はどうなっていくのか、今後も注視していきたいと思います。

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