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アフター5から、ビフォー9へ
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アフター5から、ビフォー9へ

2014/04/18
REPORT

「エクストリーム出社とは、早朝から観光、海水浴、登山などのアクティビティをこなしたのち、定刻までに出社をするエクストリームスポーツである。このスポーツのプレイヤーは一般的な通勤者と区別して、出社ニストと呼ばれる。」エクストリーム協会はこう定義している。Source: 日本エクストリーム出社協会 

 エクストリーム協会

 去年の8月頃から、インターネットや各種メディアで話題になり、私自身も日経MJで取り上げられたエクストリーム出社の記事を初めて読んだ時はその内容に度胆をぬいた。その内容とは、平日の出社前に高尾山に登り、頂上で朝日を拝んで下山、そのまま定時に出社するという、“わざわざ”そこまで平日の朝にする?と一瞬思ってしまう程、「過激なスポーツ」という印象を覚えた。とはいえ、今年1月には「サラリーマンは早朝出社をしよう」という新書が発売され、そして6月には映画化を予定している程に、その話題性が加速し続けているようだ。

 エクストリーム出社は、2013年に日本エクストリーム出社協会の天野氏と、椎名氏によって考案された。ストレスから出社拒否になりかけ、出社までの時間つぶしに街をうろついていたところ、それが習慣となった事が、エクストリーム出社の発案のきっかけという所がまた面白い。Source:ウィキペディア:エクストリーム出社

  また、エクストリーム出社協会が去年9月に開催した、全国一斉エクストリーム出社大会エントリーの競技例も見ていても、出社前に行う事としては、到底そぐわない、でもどこか魅力的な競技が多々あった。いくつか目を引いた「競技」を下記に上げてみたい。

 「エクストリーム出社 出社前に激流カヌー&温泉」

 「文化系 井の頭動物公園前でクイーンサイズのシーツに子供と絵を書いてみる」

「健康的すぎる早朝合コン編」 等

 その他にも、登山、鍋パーティ、バートウォッチング、キャンプ、朝カラオケ等、多種多様で、どれも、過激、まさにエクストリームな内容になっている。競技ルールは特にないが、とにかく「出社を果たさないと失格になる」という。

 その人気を探る為、今回「エクストリーム出社」を実際に体験し、その流行の背景を探り、現代の忙しいビジネスパーソンが、エクストリーム出社に魅了される理由を検証しようと思う。

■朝カヌーでエクストリーム出社

4つの写真2実施日:2014年4月11日金曜日  出社ニスト:4名(会社の同僚)

競技行程:

6:00am 集合

6:15am 準備体操&カヌー体験

6:30am~8:00am カヌー

8:30am 朝食

9:30am 出社

 今回、現場レポートとして選んだのは、「朝カヌーでエクストリーム出社」。エクストリーム出社を調べる中で、都内でカヌーができるアウトドアスポーツの会社にたどりついた。“エクストリーム出社にも最適!”といううたい文句を自社のホームページに載せていて、既にビジネスとして成り立っている事に驚き、すぐさま予約。社内で同行者を募ったところ、忙しい日常の中で、出社前にカヌーをする事に興味を持った同僚が6人もいた。“エクストリーム出社の注目度が高いから”なのか、“同僚も出社する事にストレスを感じているから”なのかは、定かではないが、普段社外での交流が少ない弊社の社風から言えば、驚くべき参加率だった。興味を持った6名中2名は、業務の都合で残念ながら参加できなかったので、今回は4人での参加となった。

<木曜日の夜>

明日はエクストリーム出社とはいえ、業務はしっかりこなしその日は20時半に退社。22時半には就寝準備は済ませたものの、ソワソワして眠れない。明日が休日ではないという現実はわかっているものの、遠足前夜の小学生のような気分であった。出社前日の憂鬱感は全くなく、出社前ストレスからは完璧に解放されている自分に気づく。

<4:00am起床から出発>

写真④朝の風景

わくわく感と、早起きへの不安からか、眠りは浅かった。しかしながら、いつもよりすっきりと目覚める事ができ、朝の準備もスムーズであった。あたりも少しずつ明るくなり、平日の朝の新鮮な空気を吸い込んだ。新聞配達の人に軽く挨拶をし、始発準備中の駅に到着、予想通り、電車はガラガラで、1時間かかる待ち合わせ場所までは、足りなかった睡眠を補充した。

何とかベッドから体をお越し、バタバタ準備をする日常からは、かけ離れた平日とのそのギャップが、さらに平日の朝のテンションを上げる事になる。

<6:15am 大島小松川公園 到着>

6:00amにジャージ、ランニングウェア等出社前の恰好とは思えない同僚達と待ち合わせをし、今回お世話になった「Outdooor Sports Club ZAC」深澤さんが待つ、大島小松川公園河川敷へと向かった。

 他にも参加者がいるのではないかと予想していたが、今回の参加者は私達4人だけであった。エクストリーム出社が話題ではあるものの、平日の朝っぱらからカヌーをする事が平常の事ではないという事に気づかされた瞬間でもあった。そこがまたエクストリームなのではないだろうか。

<6:30am~8:00am カヌー>

スカイツリー

4人の写真

 

 

 

 

 

 

 

 

二人乗りのカヌーが用意されていた。今回申し込んだ「TOKYOカヌーツアー」は、自分たちで漕いだカヌーで、水路からスカイツリーを見ることができるという。 準備体操と、カヌー講習を15分ほどで終え、ついにカヌーを漕ぎ出した。2人ずつのペアに分かれ、はじめはおぼつかなかったカヌーも、徐々に息もあってきて進み始める。そこそこのスピードで進んでいるかと思っていたら、河川敷をゆっくりと散歩している初老の男性に簡単に追い抜かれている事に気づき、水上でのゆっくりとした時間の流れを感じることができた。スタートした6時台は、出社前にジョギング、犬の散歩を河川敷でしている人々のゆっくりとした風景があり、8時に近づくにつれて、出勤するサラリーマンや通学途中の学生達が増え、その風景は一転して“朝の忙しい時間”に変わるのである。カヌーを漕ぎながら眺めた風景は、平日の“朝”の時間の流れを客観的に感じ取らせるものであった。そんな日常的な風景を横目に、朝の新鮮な空気や、スカイツリー、桜を楽しみながらカヌーを漕ぐのは、平日の朝とは思えない、まさに非現実的な体験であった。1時間半という短い時間ではあったが、心地よい疲労感を感じながら、今回のエクストリーム出社は終了した。

<8:00am~9:30 出社>

エクストリーム出社をする上で、一番心配したのが疲労感での仕事への影響だった。エクストリーム協会の椎名さんによれば「エクストリーム出社をした日は朝テンションが高く(出社ーズハイ)、その流れで集中力が高まる」という。ところが、平日の朝という特別な時間での非現実的体験で培ったモチベーションを、仕事へのモチベーションに切り替える事はとても大変だった。実際のところ、やっとの事で入れた仕事スイッチは、正午位には電源が切れてしまった。

仕事の疲労も最高潮の金曜日の朝に体験した、エクストリーム出社。実際に体験した事で、その魅力が幾つか見えてきた。

<非現実的な体験>

エクストリーム出社はまさに、非現実的な体験なのである。“忙しい朝だからこそ、あえて、ゆったりした時間を過ごす”、 “普段仕事の事を考えている時間に、あえて、遊びの事を考える”、 “普段寝ている時に、あえてカヌーをする“等と、 「あえて」特別な事をする事で、普段とは違う”異常感“を自分の中で感じ、そして、人とは違うという”優越感“にまでなった、特別な感覚を味わえるのだ。休日に同じアクティビティを行ったとしても、感じることのできないこの”異常感“と“優越感”こそが、平日の朝に行う、エクストリーム出社の醍醐味なのではないだろうか。

<仕事との距離感>

ビジネスパーソンの間で、定着しつつある、「朝活」とは明らかに違うのが、その目的である。「朝活」は朝の時間を利用して、仕事、勉強、スポーツ等を行い、仕事のためになるような自己啓発を目的としている。エクストリーム出社は、あくまでも出社前に遊ぶことに主眼をおいており、わざわざ平日の仕事前に行う事が面白い。出社前であれば、残った業務を気にする事も、残業している同僚を後目に退社して恐縮する必要ない。エクストリーム出社はそんな真面目なサラリーマンにとって、仕事とのいい距離感を持つ事を可能にしているのではないだろうか。

<健康的>

早起きは三文の徳とも言うが、今回のエクストリーム出社には、「早起き」、「体を動かす」「新鮮な空気を吸う」「朝食を食べる」という数々の健康的な利点があった。エクストリーム出社の競技例で、「朝合コン」がある。出社前なので、飲み物はノンアルコールであり、もちろんお酒の失態もなければ、男女間も非常に健全という利点がある。

今後、エクストリーム出社は、新しいライフスタイルとして定着するのだろうか。「朝活」ブームから開講された市民講座の丸の内朝大学、「朝ごはんブーム」で最近話題の、マックブレックファストや、朝定食など、朝に関するビジネスが多数展開している中で、「エクストリーム出社」は、観光、アウトドア、スポーツ、合コン、デート等あらゆる分野で、朝マーケットの開拓を可能にしているのだ。

エクストリーム出社が定着すれば、「アフター5」ならぬ、「ビフォー9」マーケットの可能性があるのではないだろうか。「6:00amオープンのデパート」、「6:00amから開演するテーマパーク」、等、今後沢山の“ビフォー9”ビジネスが登場するかもしれない。

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