パチンコはいまや斜陽産業
国民の半分がパチンコ経験者*1であるという統計があるほど、日本人にとってパチンコは身近な娯楽である。しかし、いまやそのパチンコが斜陽産業になった。かつては30兆円規模といわれた市場も今は19兆円規模*2になり、全国のパチンコ店舗数も減少の一途を辿っている。パチンコ業界は今、正念場を迎えているのである。
しかし、かつて娯楽として人気を誇ったパチンコがなぜ衰退の一途を辿ることになったのだろうか。これにはパチンコ業界が迎えた3つの危機が大きく関係しているという。
パチンコを苦しめた客離れ三大危機
第一の危機 1990年代の「ハイリスク・ハイリターン」傾向の高まり
1990年代、景気が低迷し、顧客が次第にハイリスク・ハイリターンを狙うようになると、店舗も続々と射幸性の高い機種を並べるようになったのである*3。これにより、娯楽としてパチンコ店を訪れていた客は去り、一攫千金を狙うコアなファン層しか残らなかった。
第二の危機 射幸性を煽る機器に対する取締りの強化
ライトユーザーが離れてしまったパチンコ店だが、売り上げは変わらなかった。これは、一人当たりの単価が上昇したためである*4。ヘビーユーザーは、射幸性の高さとスリルを求めて高額の投資をするようになった。当時、多くのヘビーユーザーは、大当たりの連チャンが魅力の4号機パチスロ目当てにパチンコ店を訪れていた。しかし、2007年9月末までにこれらの高い射幸性の機種は全て撤去することが義務付けられた。これに伴いパチンコホールは入替のために多額の費用負担を強いられた上、ヘビーユーザーまでもパチンコから離れていった*5。
第三の危機 リスクテイクを避ける若者の増加
新たな顧客となるはずの18歳(1999年生まれ)以上の年代は一般的に「ゆとり世代」と呼ばれている。この世代はバブル経済崩壊後に長く続く経済停滞の風潮を受け、堅実で安定した生活を求める傾向がある。流行に左右されず、無駄がなく自分に心地良いもの、プライド(見栄)よりも実質性のあるものを選ぶという消費スタイルをもっている。また、結果を悟り高望みをしないため、この世代は「さとり世代」とも呼ばれている*6。従って、この世代の賭け事に対する態度は冷めている。賭け事に負けて所持金を失うリスクというのは、回避できるリスクである。そのため、あえてパチンコ店へ遊びに行こうということはない。
このように顧客確保、顧客獲得の点において、さまざまな危機にさらされ、いまや斜陽産業扱いされるようになったパチンコ業界ではあるが、この業界をもっとも特徴付けているのが、以下の運営方式である。
パチンコ業界の独自の特徴として、真っ先に上がるのは「三店方式」である。
法律的には、風営法により「遊技」と定められるパチンコは「景品」を提供することはできても、「現金又は有価証券を賞品として提供すること」や「客に提供した賞品を
買い取ること」は禁じられている。しかし、客、ホール、景品交換所の独立する三者を経由することにより、換金をすることができる。これを「三店方式」と呼ぶ。三店方式の始まりは戦後まで遡る。
戦後まもなく連発式のパチンコが普及すると、パチンコ店が賞品を買い取る自家買いが横行した。しかしこれは賭博にあたるとし、警察の摘発が相次いだ。そこで、法の目をくぐって売人が路上で客から景品を買い取りはじめた。その売人は反社会的勢力とのつながりを持っていたため、次第にパチンコ店がそれらの組織にみかじめ料を支払うようになった。これが原因で反社会的勢力同士の抗争が始まったことを機に、1961年大阪府警管轄の下、大阪府遊技協同組合が、今の三店方式の原型となる「大阪方式」を生み出した。これは、社会的弱者に景品交換所を職場として提供するなど、社会貢献に寄与し、反社会的勢力排除にも効果的であった。その後、各自治体で反社会的勢力排除を目的に三店方式が取られるようになった*7。
しかしながら、法律的解釈では換金はできないとする中、行政的解釈で換金を可能にしているというところに矛盾が生じている。そのため、日本の株式市場では、パチンコは法的に認められたビジネスモデルをとっていないグレーゾーンに属している存在であるとして、投資家保護などを理由に株式上場を認めていない。
換金の法制化と引き換えに換金時の課税
そのようなパチンコ業界において、今後に大きく係ってくるであろうニュースが、今年6月にあった。パチンコ税に関することである。安部政権の経済財政運営方針の「骨太方針」のひとつである法人税実行税率の引き下げに伴い、新たな財源として、19兆円規模といわれるパチンコ業界に白羽の矢が立ったというものだ。換金の際に課税をすれば、換金免許制度を創設し、景品交換所は公益法人に委託された業者にするというのである*8。
パチンコの換金が認められれば、法律でパチンコのビジネスモデルの存在が認められるようになり、今まで認められてこなかったIPO(株式上場)が可能になる。さまざまな危機にさらされているパチンコ業界としては、資金調達先が広くなることや、パチンコ業界の社会的ステータス*9 が向上することなどのメリットも大きい。
風営法改正を踏み台にし、カジノ合法化に乗っかる パチンコ業界の本音
しかしながらパチンコ業界は、業界の持つネガティブなイメージ(反社会的勢力や警察当局との不適切な付き合い等)から換金の法制化に対する世論の形成が難しいため、法制定がなかなか進まない。
そこでパチンコ業界が目を付けたのが、風営法の改正とカジノ合法化である。
風営法の改正
2014年2月14日、風営法の改正に向けて議連が設立された。これは元々は、ダンスクラブなどに対する取締りの強化に対して、規制を緩めたいクラブ業界の起こした動きが発端となっている。しかし、実際には、ダンスクラブに関する議論は、ほとんど行なわれていない。発足当初から、民間からの講師として招かれたのは「パチンコ系の業界団体」だった*10。これは、パチンコ業界とクラブ業界が、風営法の規制緩和をしたいという点で利害が一致したためである。もともと世論の支持が高くはないパチンコ業界にとっては、ダンスクラブ業界とのタッグマッチはありがたいと考えている。
次に、パチンコ業界が目標達成のために目を付けたのが、政府のカジノ合法化に向けた動きである。2013年12月に日本のカジノを推進するIR(統合型リゾート)推進法案と呼ばれる法律案が国会に提出された。2014年現在、国会での審議が盛んにおこなわれている。そこで、パチンコ業界は、かねてからこのカジノ合法化に紐付ける形でパチンコ換金法制化論を展開しているのだ*11。
現行法では、四大賭博「競馬、競輪、競艇、オートレース」のみが公的賭博と認められているが、そのほかの賭博行為は賭博法により厳しく取り締まられている。そのため、カジノを合法化するには刑法(賭博法)上の制定が必要である。つまり現状では、カジノは競合相手というよりも、法制定までの手を組む相手なのである。
法制定後のカジノの日本参入 追い風と住み分け
では、実際にカジノが合法化されたら、その後のパチンコ業界にどのような影響があるのだろうか。
カジノへの逆参入
カジノ構想を目前に控えて、国内のパチンコ企業の中には、カジノ業界への逆参入をもくろむ動きも見え始めている。ダイナムジャパンホールディングスは、国内カジノ事業参入のために増資。また、パチンコ国内最大手のマルハンもカジノ運営参入を検討している。セガサミーホールディングスは、韓国の合弁を通じてカジノの運営ノウハウを吸収するために社員を派遣するといった動きがある*12。これらの企業は、カジノをパチンコ事業の競合としてではなく、グループの新規事業として捉えており、新たな顧客確保と市場規模拡大の準備に動き出している。
業界内で住み分け、明確化
IR導入により、カジノがまるでパチンコと同じ土俵で戦うライバルのような位置づけで語られることが多い。しかし、IR自体は統合型施設としての運営が目的である。その枠組みの中で、パチンコとカジノは相対するものではない。なぜならば、パチンコが生活圏内にある庶民的で時間消費型レジャーであるのに対して、カジノは巨額を投じて一攫千金を狙う非日常の娯楽施設であるからだ。パチンコとカジノは異なる賭博として住み分けし、別のエンターテイメントとして共存していくだろう*13と考えられている。
パチンコ業界は、三店方式というビジネスモデルにより、庶民の娯楽の王者として成長を続け、業界も利益を享受してきた。しかし時代の流れとともに、このビジネスモデルこそが、市場規模の縮小を促進する要因となってしまったことが、誰の目にも明らかになってきた。そこで、これまで度々俎上にあがったが、先送りされてきた法改正(風営法、賭博法)が、起死回生の一手として浮上してきた。もはや法改正のほかに、パチンコ業界を蘇らせる手は残されていないと思わせる。
次回は顧客が考えるパチンコ業界の現状と今後について特集したいと思う。
参考、引用文献
*1、2 パチンコ業界特集https://www.nichiyukyo.or.jp/rikunabi2015/
*3、10、11日経ビジネスONLINE“パチンコが突きつける「賭博民営化」の矛盾”
https://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140306/260671/?ST
*4、5 中央日報 (2007年12月27日).“日本、パチンコ初金融危機? ”
https://japanese.joins.com/article/228/94228.html?sectcode=A00&servcode=A00
*6宮木由貴子 (2011年1月24日). “親世代で見る「ゆとり世代」と「脱ゆとり世代」”.
第一生命経済研究所.https://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/focus/fc1101b.pdf
*7鍛冶博之 (2007年3月). “『社会科学』78号「パチンコホール業界の現代的課題と対策(Ⅰ)」”. 同志社大学. pp. pp.23-47.https://cpu8080.com.ne.kr/gblog/news/007000780002.pdf
*8毎日新聞(2014年8月19日).“パチンコ税:自民議連に創設案浮上 換金を対象に”
https://mainichi.jp/select/news/p20140820k0000m010111000c.html
*9日経ビジネスONLINE “ダイナム、香港上場の余波”
https://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120821/235850/?P=1
*12 東洋経済ONLINE(2014.6.29).“ダイナム、パチンコで大衆カジノに参入?”
https://toyokeizai.net/articles/-/14527.
*13 優良中堅・中小企業トップ3万人のための経営誌CEO(2014.9.12閲覧).
“CEO社長情報|セガサミーホールディングス_里見治”
https://ceo-vnetj.com/vol.10-02.html
グラフ・表・写真出典元
グラフ1:パチンコ参加人口推移
https://gekiatupatinko.blog.fc2.com/blog-entry-1204.html
表1:三店方式
https://ameblo.jp/up-win/entry-11324920799.html
写真1:カジノ
https://allabout.co.jp/gm/gc/18839/
写真2:昭和40年代のパチンコ店の風景
https://blog.kurayo.com/?month=200701
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