先日面白い組み合わせの店があると知り、下北沢にある1件の本屋に足を運んできた。「B&B」という店名が示すのは「Book and Beer」である。
最初にこの店の存在を知った時は、「それってありなの?」という疑問しか浮かばなかった。というのも、ここで提供される2つの要素は「読書」と「酒」である。自身の中ではいわば「集中」と「酔い」にあたり、それは相容れぬ関係であることが当然の認識であったためだ。
「B&B」は本屋であるが、棚と棚の間に椅子が随所置かれており、気にいった本があればその場で手に取り一読が出来るシステムとなっている。
そのお供に、ビールの提供が行われている。カウンター横にはビールサーバーが設置されており、樽生のビールを片手にお気に入りの一冊を探し歩くことができる。
気になる一冊に手を伸ばし、本をパラパラとめくりながら行う晩酌は、本を読むことに重きを置くというよりは、読書という行為から得られる「静」の時間をより深めるためのアクセントとしての効果が強く感じられた。
注がれたばかりのビールのカップを片手に、たくさんの本に囲まれた落ち着いた雰囲気の中で嗜む一杯は、自分の時間に酔い浸ることができる心地よい雰囲気を演出していた。
このような「読書」と「酒」という従来の思考では到底結びつかない要素が掛け合わされることで今までには想像していなかった新たな魅力を体験できた。
そうした発見を踏まえ、ふと近年のトレンドを見直してみると、人気を集めているものの多くがこうした「意外な組み合わせ」からの産物組が多いように見られる。
かつて高度経済成長期の終焉を向かえた日本は、新たな「生き方」を求め彷徨うという「脱構築主義」を迎えた。「ミスマッチ」がよい意味で使われるようになったのがこの頃である。このような時代では、全てにおいて「新しさ」の創造がもてはやされていたことには納得がいく。
しかしながら、失われた20年と揶揄され景気の先行きが不透明な現代社会は、今もなお社会全体の価値観が保守的な雰囲気をぬぐいきれていないように感じられる。
では、なぜこのようなコンサバティブ色が強いとされる現代の中で、「意外な組み合わせ」による「脱構築」の概念が再び注目しつつあるのだろうか。
今回全四部構成の連載企画の第一回目として、まずは近年世の中に出回っている組み合わせの例を洗い出してみた。
消費者が抱く従来の先入観や常識を覆す「意外な組み合わせ」は、アタリ(成功)組と呼ばれるものからハズレ(失敗)組まで数多くのモノやサービスが市場に出回っている。
そうした組み合わせの中でもアタリ組として今や定番化している、もしくは浸透しつつあるものの中で「組み合わせの特性」が共通しているものごとに大きくA,B,Cの3つのグループに分類した。
分類の考え方としては、商品およびサービスが持つカテゴリーを①中核価値 ②周辺価値 に分けて考えた。例えば、カキ氷においては中核価値が「氷」で周辺価値が「シロップ」である。
各グループの特性は以下の通りである。
グループA:「既成概念転換型」: 従来当然と思われていた周辺価値を転換することにより、新たな価値の発見に成功している
・ 一般的には否定的な組み合わせとしての先入観が強かったニッチな需要が体言化し、その効果が認められ拡大浸透したものと見られる
グループB:「脱構築型」: 絶対必須と思われる中核価値を落とすことで今までにない進化を遂げ、既存組との差別化に成功している
・ もともと存在していた本来の姿には満足を感じていなかった層からの新たな支持が得られたものと見られる
グループC:「異種格闘技型」: 組み合わせが困難と思われる新価値をぶつけることで思いがけない相乗効果の産出に成功している
・ それまでは誰もが予想していなかった新たな価値の魅力が伝わり、新規需要が増加したものと見られる
一方、今やハズレ組としてデビュー当時は目新しさに脚光を浴びたが、思った以上の普及が見られず惜しくも影を潜めることとなった、もしくは今後も同様の道を辿る可能性が予想されるものを「組み合わせの特性」が共通しているものごとに大きくD,E,Fの3つのグループに分類した結果が以下の通りである。
これらグループD,E,Fが、それぞれ消費者から受け入れにくかった理由として、以下の点が挙げられる。
グループD:「エコシステム未整備型」: これは中核価値、周辺価値が共に中途半端であり、コンテンツ不足や使用デバイス、環境が限定的となり、最大限の魅力を伝えるための体制が発展途上であったため
・ 現行のウェアラブル端末が今後同グループへの追随の可能性が見られる中、Appleのi watch の登場が注目されている
グループE:「マーケティング先行型」: これは中核価値の失敗例で、机上のマーケティングでは十分と思えるアイディアであったが、かけ合わされて生まれたものが期待以上の成果を感じさせなかった、もしくはそれ以上の マイナス要素が浮き彫りとなったため
グループF:「迷走型」: これは新価値の添加に失敗した例で、一見便利に見えそうな要素が加えられたが使いこなすシーンが見つけにくく、用途が広がらなかったため
アタリ組A,B,Cとハズレ組D,E,F との相関関係を示したのが以下の通りである
アタリ組 ハズレ組
グループA : 周辺価値成功組 ←→ グループD : 中途半端組
グループB : 中核価値成功組 ←→ グループE : 中核価値失敗組
グループC : 新価値添加成功組 ←→ グループF:新価値添加失敗組
グループD,E,Fでは追加された要素が基本要素を発展させるにはやや力不足であり、プラス効果というよりはむしろ普及への足かせとなったものが多い。
一見これらハズレ組はアイディアとしては斬新であり、既存組や競合が少なく「過去」との比較対象が難しい。いわば「一番絞り」であり、通常はイイモノのはずである。
しかしながら、この一番絞りは消費者にとっての「安心」できる情報が乏しく、結果としては足を踏み込むことへの躊躇を与えることとなったように思われる。
次回連載第二回目では、これらイイモノに見られる一番絞りが、何故「一番煎じ」という残念な結果になったのかを考察していくことにする。