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2018年02月02日

《 CreatorによるMarket Creation 》 #004 竹馬 靖具さん 前編

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   竹馬 靖具  (映画監督)

1983年栃木県足利市生まれ。役者としての活動を経て、2009年、自身が監督・脚本・主演を務めた映画「今、僕は」を発表。国内外の映画祭で好評を得て、東京では8週間以上のロングラン上映を記録。2011年、脚本で参加した真利子哲也監督「NINIFUNI」は、テアトル新宿で劇場公開後、第64回ロカルノ国際映画祭に招待上映される。「蜃気楼の舟」が長編2作目の監督作品。第50回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭フォーラムオプインディペンデントコンペティション正式出品。第26回シンガポール国際映画祭正式出品。


イントロダクション

竹馬靖具さんの初監督映画『今、僕は』は、社会を拒絶して自室に籠った生活を送る主人公の青年が、様々な苦難の末、それまで表す事の出来なかった自分本来の感覚を発見する「気づき」に辿り着くまでを描いた作品でした。余分な説明やセリフを省き、ドキュメンタリーのようなタッチで全編が構成されたこの作品は、引きこもりの更生や人間の成長を客観的な描写で伝える事よりも、主人公の感覚を観る者に追体験させるような生々しい映像によって、説明することが難しい「気づき」の感覚を、映画の外側にいる観客自身の実感として伝えているように感じられます。映画製作については全くの独学で、多くの映画を観る事で作り方を身につけたという竹馬さんは、共感や追体験といった、竹馬さん自身が実感する映画の機能とその効果を観客に届けるために、自らの表現を形作ろうとしているのかもしれません。

2作目の監督作となる『蜃気楼の舟』は、現代の貧困ビジネスを描きながら、心象風景や幻想的なシーンが織り交ぜられた、デビュー作とは全く異なる表現が試みられています。7年ぶりに公開された新作は、観客にどのような実感を届けようとしているのか。制作・公開の背景について伺いました。


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– – 竹馬監督の『蜃気楼の舟』は、「囲い屋」と呼ばれる悪徳業者で働く青年を主人公にした長編映画です。プレハブ小屋に囲い込んだホームレスから生活保護費を搾取するという実在の社会問題を扱っていますが、このような題材で映画を撮ろうと思ったきっかけは何でしたか?

竹馬さん(以下略称) : やっぱり僕自身の感覚に、「囲い屋」と共通するところがあったと思います。金になれば何でもいいみたいな感じでホームレスをモノや家畜のように扱ってしまう「囲い屋」達の感覚は、普段の生活で利害とか損得のような事ばかりに気をとられ、いつの間にか他者に対する感覚が鈍くなってしまった僕自身にも地続きのものだと思いました。それは同時に、現代の多くの人や様々な場面にも共通するものではないかと思います。今の社会やシステムは効率的に他者と繋がっているようで、実は人から離れていってるのかもしれません。「囲い屋」を映画の設定として使うことで、そうした今の自分が感じる現代性や、人間を撮ることができると思ったんです。

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– – 現代的でショッキングな題材を扱っていますが、お話自体に劇的な展開や派手な見せ場などは無く、心象風景などを交えながら淡々と映画が進行していくようにも感じられます。作品の構成については、どのような狙いがありましたか?

竹馬 : 劇的なものであったり、人の感情や欲望を刺激する表現は、観客の目がそこばかり向いてしまい、それ一辺倒では観る人個人の感覚が損なわれるようなことが起こり得るかもしれません。この映画では全体に俯瞰で感情を伴わない見せ方をしていて、音楽も、感情を先導しないノイズ的なものを乗せています。意味や感情を押し付けるような、お話のルールに沿うのではなく、物語や言葉では捉え難いイメージを感じて欲しいと思っていました。現代を映すと同時に、時代を超えた普遍的な人間のイメージを現したいという願望が、僕の中にあったと思います。

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– – 意味の捉え難い場面もあるのですが、どのシーンも魅力的に作り込まれていると感じ、多くの場面が記憶に残りました。撮影の現場ではどのような点に留意して、印象的な場面を作り上げているのでしょうか?

竹馬 : 脚本を書いた時点でイメージは僕の中にはっきりとありましたが、それを直接的な言葉で役者に伝える事は、あまりしませんでした。安易な言葉で役者をコントロールしてしまう事で、映されるシーンやキャラクターを単純な言葉の意味に押し込めたくなかったんです。読んでも何が起こっているのかよく分からない、ある意味で逸脱した脚本だったけど、書かれているセリフや状況に対して皆がそれぞれ考えてくるイメージがあるので、まずは彼らが出してくる芝居やアイデアを見てから演出するようにしていました。シーンで具体的な意味を伝えようとは思っていなくて、もっと不定形というか、観た人がどういうイメージを感じるか、観客それぞれが思い浮かべる印象や感覚を、意識していたと思います。

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– – 明確なストーリーやはっきりとした意味が与えられない事で、作品に対して難解な印象を抱く観客もいるかと思います。観る人の鑑賞や理解を導くために、何か意識された事などはありますか?

竹馬 : この人物は「囲い屋」をやっている。とか、このホームレスはここで死にました。みたいな情報は、最小限の導入として伝えていると思うし、映像のリズムやスピードみたいなものも編集でもかなり意識していましたが、作品のイメージは、ただ受動的に観ているだけでは分からなくなると思います。シーンで感じる印象や感覚を想像の中で紡いでいく事で、言葉を超えた人それぞれのイメージを、観客の中に現したいと思っていました。詩のように、映画は認識しにくい何かを示して感じさせることができると思うので、そういう僕の中にある感覚的イメージを、観客の中に再現したいという事なのかもしれません。何かメッセージを伝えたり、観る人の感情をコントロールするのではなく、それぞれの観客に、能動的に感じてもらえてたら嬉しいです。

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– – 国内の主要都市をはじめ、全国各地のミニシアターで作品を公開されていましたが、観客の反応や反響、映画興行としての手ごたえはいかがでしたか?

竹馬 : 劇場や、ネットなどでも思った以上に多くの反応が上がっていて、そういう意味での手ごたえは感じていますが、観てスカッとするような映画と比べたら、やっぱり興行としては難しい所があります。出来上がった作品は多くの人に観てもらいたいので、クラウドファウンディングで興行費用のための資金を集め、お客さんに寄付で支えてもらいながら各地で作品を公開しました。やっぱり商業性と上手く折り合いをつけながら、職業としての枠組みの中でこの作品を撮れるとは思えなかったんです。メジャーとか商業的なやり方では、物語が薄いとか分かりにくいとか、いろんなダメ出しが出てしまうので、作品自体が実現できなかったと思います。マイナーであっても、自分の意思や感覚を反映したものを撮りたいと思ったし、そういう作品を、観客まで届けたいと思っていました。

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– – 『蜃気楼の舟』は、日常をドキュメンタリー調で描いた前作から表現方法や製作のスタンスが大きく変化しているように感じます。前作からのファンは驚いたと思いますが、竹馬さんの中で変化のきっかけなどはありましたか?

竹馬 : 社会の環境や自分自身の変化がありますが、やっぱり震災の経験は大きく関係してくるように思います。自分達のために造られたものが自分達を殺すような、今ある社会や文明の危うさを、3.11の出来事で感じました。厳しい現実の中で、自分が映画で出来る事は、あそこで被害にあった人達の痛みを意識しながら映画を作る事だと思いました。人間の可能性や希望を現実の中に見つけられるような普遍的なイメージを、今の時代を通して示す事が重要だと思ったんです。時代を超えた人間の真理があるのだとしたら、今回みたいなやり方じゃないと届けられないのではないかと思っていたのもありますが、それは無謀な挑戦でもあったと思います。関係者や協力してくださった方々には、本当に感謝しています。

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インタビュー / 構成 : 渡邊 陽平

㈱スガタリサーチでマーケティングの業務に携わりながら、ファインアートの市場で絵描きとしても活動中

写真撮影 : 磯崎 威志 (Focus & Graph Studio

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