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2015年12月25日

《 CreatorによるMarket Creation 》 #002 加藤 千晶さん 前編

個人規模でユニークな活動を展開するクリエイターにお話を伺い、彼らの創作や活動内容についてインタビュー形式で紹介しています。市場動向をピックアップして紹介する「マーケティング Eye Watch」の番外編として、不定期で掲載しています。

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服飾衣裳作家 加藤 千晶  (CHIAKI-a.ladonna.JAPAN)

コレクションブランド等のアパレルデザイナーとして約10年の経験を積み、2007年フリーランスになる。2009年、デザインオフィス「a.ladonna」設立。人と日本製にこだわりながら、服だけに捉われない様々なジャンルとのコラボレーションにより、作品やイベントを創り出している。新作をトランクに詰めて国内外を巡り、展示会を開催中。アーティストのステージ衣裳やウェディングドレスのオーダーメイド、衣裳のアレンジ・リメイク等も多数手掛けている。1978年 三重県四日市市出身。

【 webサイト 】https://a-ladonna.com/ja/
【 オンラインショップ 】https://aladonna.fashionstore.jp/


[  シンプルに生きていく  本物の強さ / 多くを語らない シンプルの美しさ  ]

コンセプトの中で「シンプル」を強調する加藤千晶さんのブランドは、しかしその活動内に複雑で多様な要素を含んでいます。既製服で使われることの少ない伝統的な職人技術を積極的に自作に取り入れ、カメラマンや画家など異業種とのコラボレーションを数多く行い、歌手やダンサーなどへの衣装提供や、ウェディングドレスのオーダーメイドを並行して行うなど、活動の方向は多岐に渡っています。アパレル企業の大量生産、大量消費や効率を追求する体質に疑問を抱いて自らのブランドを起こしたという加藤さんは、ファストファッションや大手の服作りとは距離を置き、ブランド内のほぼ全ての主要工程を自らの手で行っているといいます。多様なものを個人の手で一つにまとめ上げ「シンプル」な服や活動に還元することが、加藤さんの目指す服づくりの形であるのかもしれません。

様々な要素を取り入れながら企業とは違う方法を模索し続け、2014年から一般ユーザーに向けて販売が開始されたユニークな服のシリーズ「綴(つづり)」は、作り手のどのような想いを携えてユーザーまで届けられているのでしょうか。加藤さん独自の制作プロセスや販売方法について、詳しくお話を伺いました。


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– – 加藤さんのブランドから発表されるシリーズ「綴(つづり)」は、独特なシルエットや形が印象的です。コンセプトや具体的な制作について教えて下さい。

加藤さん(以下略称) : 「綴」は誰にでも着ることのできる、服の機能を持った立体物のように制作しているシリーズです。「コート」や「スカート」など7種類のアイテムに分類していますが、基本は全てフリーサイズ・ユニセックスで、人種や年齢、体型、性別に関わらずあらゆる人が様々な着用を出来るように形を調整しています。例えばこのスカートは、スペインで訪れたサクラダ・ファミリアの螺旋階段をイメージしてドローイングを繰り返し、そこから起こした14個のパーツをボディに当てて、一つずつ形を調整しながら立体的にスカートの形に組み上げています。着る人の個性によって色々な着方ができる服なので、首に巻いたり被ったりもできる。男性の方でも身に着けることが出来るスカートです。

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– – 機能としては誰にでも着ることが出来るという事ですが、斬新なデザインが逆にユーザーを拒む場合もあるかと思います。服の個性とニーズのバランスをどのように調整していますか?

加藤 : 確かに形が特殊な服だから、とっつきにくいってよく言われます (笑)。柄物が苦手な人もいますよね。ただ「綴」では、事前にユーザーの年齢やクラスをターゲットするような事はしていません。いろんな人に着て欲しいけど、買ってくれるのは特殊なデザインや世界観に共感してくれる100人に一人でいいと思ってる。1%も居ないんだったら、こちらから探しに行くよってスタンスで、トランクに服を詰めて地方や海外まで展示販売しに行き、直接お客様に作品を説明して届けるところまでを一つのプロジェクトと考えています。これまで日本以外では、アメリカやヨーロッパなどで販売や発表をして、好評をいただきました。

– – 海外のユーザーには、どのような点が評価されているとお感じですか?

加藤 : 一つには、日本の技術力があると思います。「綴」のテキスタイルは抽象的な絵画作品を京都の業者さんの染料プリント技術で布に再現していて、生地は尾州や浜松産です。デザインやコンセプトにも目を留めていただくけど、海外では特にその繊細さや質の高さが際立って、興味を持っていただく事も多いです。服をつくる上で、日本の職人さんが受け継いでいる高レベルな伝統技術を色んな国や土地のお客さんに届ける架け橋になれればと思っているけど、伝統に私の服が助けられている面も大きいのかもしれません。

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– – 加藤さんはもともとアパレル企業でデザイナーとして経験を積まれた後、ご自身のブランドを起こされました。「綴」のような企業の既製服とは距離のある制作は、どのような経緯で始められたのですか?

加藤 : ブランドを立ち上げた当初から、受注生産など比較的小さな生産量で回していました。ただ、それだと関わっていただく工場や職人さんに利益を還元しにくくて、場合によっては負担になってしまうジレンマもありました。大量生産ではない個人の服作りを根本から考え直したとき、分業じゃなくて一人で全てに責任を持って制作するスタイルがあってもいいんじゃないかって思ったんです。生地の制作や特殊な加工以外は、縫製も裁断もパターンも全て私の手作業で始めてみました。通常のアパレル製作ではパタンナーという服の設計図を引く職種があって、ジャケットやワンピースなど定型の服を作る場合は、その型固有のパターン知識や経験が服の出来を左右します。専門知識のないデザイナーがパターンも引くなんて常識的にはありえないんだけど、魅力的な形を着れる立体に起こすっていうコンセプトであれば、作品として発表してもいいと判断しました。学校の授業やデザインの現場でパターンの基礎と原理は理解していたので、応用するのにさほど時間はかからなかったし、結果的に私がパターンを引くことで、一般的な服の形式へのこだわりがなくなって、サイズや性別も関係なく、魅力的な形を自由に着る服のスタイルが生まれました。


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– – パタンナーを使わずに個人で全てを制作するスタイルは、分業に対してどのような利点があると思いますか?

加藤 : 服って、100%のものを提供しちゃダメだと思うのね。服だけで飾っておくものではない、人が入ってなんぼだから、着る人の体と想像力が動ける「空間」を残しておかなきゃいけない。でも分業制作は、お互いプロの職人同士が100%の技術をすり合わせるから、そういうわざと隙間を残すみたいなことが難しいんじゃないでしょうか。個人制作では100%でつくったものを一旦崩して、再度隙間を空けて組み立て直すような感覚を発揮できるから、お客さんの体が入った時に、こうやって着るのかな、こうかしらって動ける、その人らしさが入れる「空間」を意図的につくりやすいのが、一番の利点だと思います。

以前は着てくれるお客さんのためとか、テキスタイルの魅力を活かしたいという意識が前面に出ていて、制作の中で自分の個性は抑えていました。でも、スケッチしたり布を触ったりパターンを引いたりするのを行き来しながら、工程全体の中で形や隙間を見つけていく「綴」のやり方は、私のお客さんに対する考え方や素材への意識が形と直結しているので、あえて個性を抑える必要も無くなったと思っています。


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– – ユニークな制作スタイルを進めていく中での問題点や、今後の課題はありますか

加藤 : やっぱり、より多くの人に作品を届けるためには、私一人の生産スピードでは限界がありますね。今は個人でつくった服のスタイルを維持したまま、生地の反物を裁断工場に入れ、外部の縫製技術者とチームを組んで、注文が入った分だけ生産できる仕組みに徐々に移行しています。効率的な大量生産をしないのは、製品在庫を抱えるリスクをとりたくないというよりも、無駄を出したくないんです。生地を無駄にしたくないのは当然だけど、それ以上に、関わっていただいた技術者や職人さんの想いを蔑にすることはできないから、大企業みたいに、一度に大量に作って大量に売って、残りをセールに出すようなことはしない。これは起業の始めから一貫しています。でも外の人に委託しながら継続して回していく仕組みを独自に作っていかなきゃ広がらないとも思っているので、時代とニーズに応えていくためには、新しい発想とシステムが必要だと感じています。


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– – 加藤さんのブランドでは「綴」以外にもいくつかの企画を並行していますね。今後ブランドで手掛けたい新しい企画などがあれば教えてください。

加藤 : 初期からずっと、個人の嗜好に合わせたオーダーメイドのウェディングドレス制作を行っています。これは「綴」とは対照的に、ご注文いただいた方の体を綿密に採寸して、個人の体型にぴったり合わせた制作をします。でも特にマタニティドレスを制作していると、ドレスの形式を守りながら妊婦さんの体に負担を掛けないように調整するのが本当に難しい。例えばそういった服の形式がユーザーに与える不自由さを取り除くような方向で、何か「綴」のつくり方から展開できないかを考えています。

現在準備している『バリアフリー』のプロジェクトは、身体に障がいを持つ方々から「綴」の紐やゴムで止めて自由に着ることのできる点に好評をいただいたことがきっかけで始まったプロジェクトです。普段何気なく使っているボタンやファスナーなどの止め具も、障がいをもつ方にはバリアになっているんですね。日本の技術力はこういった分野に大きな可能性を持っていると思うけど、実態に即したきめ細かい機能性と、デザイン性を兼ね備えたバリアフリーの衣服は少ないと感じています。服は、人と人が出会った時のファーストコミュニケーションであるというのが私の実感であり持論です。障がいを持つ方々にも、自分らしく生活や交流を楽しんで欲しいし、私の服が、少しでもその手助けやきっかけになればと思っています。彼らにヒアリングをしながら外部の技術者とチームを編成して、彼らのための新しい服を、少しずつ形にしています。

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インタビュー / 構成 : 渡邊 陽平

㈱スガタリサーチでマーケティングの業務に携わりながら、ファインアートの市場で絵描きとしても活動中

写真撮影 : 磯崎 威志 (Focus & Graph Studio

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