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2014年07月18日

百貨店化粧品フロアの謎

化粧品は不況知らずの業界だと言われる。その売り上げは、女性の人口に連動するため、爆発的に飛躍こそしないものの、化粧品ビジネスは常に一定の業績を上げ続ける非常に安定した業界と言える。

その販売方法も実に多様であり、古くからある訪問販売に始まり、ドラッグストア等におけるセルフ販売、中には店舗を持たずインターネットのみで購入できる商品もある。

しかし、このように多様な流通チャネルを持つ化粧品販売の中でも、特異なものは百貨店における対面販売ではないだろうか。私自身過去に、あるブランドのビューティーアドバイザー(=BA)として勤務していた。そこで今回はBAの役割についても私自身の経験を交えながら分析してみたい。

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shu uemura表参道本店のアイブロー専門カウンセリングコーナー 写真:Web magazine Openersと資生堂ビューティーサルーン 博多天神店

写真:資生堂ビューティーサルーン

 百貨店の一階=化粧品フロアの謎

地方の小型店から都内の大型店まで、その百貨店の規模に関わらず、どこの百貨店でも化粧品フロアはほぼ例外なく百貨店の一階にある。その配置を不思議に思ったことは無いだろうか。

これには明確な理由が幾つか存在する。

まず便宜上の理由としては、空気の循環を考慮しての理由である。通常百貨店の一階フロアは、交通機関と直接繋がっていることも多く、出入り口が複数存在する。化粧品は香りが強いものが多く、香水を扱っているブランドも多いため、店内に強い香りがこもらない様な工夫がなされている。

次に、百貨店の一階と言うのは、消費者にとって一番目に付く階であり、店側からすれば大きな売り上げを期待するフロアである。華やかな化粧品フロアは、百貨店のメインターゲットとなる女性客を惹きつけ、上層フロアへの買い回りを促す、“噴水効果”、をもたらす。化粧品フロアの上の階には、婦人服やアクセサリーの売り場が配置されるのはその為である。 加えて、化粧品は単価が高い割に一個あたりが小さく省スペースであり、消耗品の為、リピート率も高い。売り場のBAは、そのほとんどが、ブランド側の社員であるため、百貨店側は人件費の心配が無い。これらの理由から化粧品フロアは”儲かるフロア”であり、エントランスフロアにふさわしい要素を十分に兼ね備えていると言える。 Source: live door news

プロの技術と生きた宣伝媒体

化粧品フロアの顔と言えばBAである。そのシーズンのトレンドや、新商品を取り入れた華やかなメイクアップ、手入れの行き届いた肌などは、プロのテクニックを持った一般人の代表として、店頭における最高のPRとなる。雑誌やテレビのモデルや女優は遠い存在だが、BAは、“女性らしさを忘れずバリバリ働く女性”として、身近に感じられるのではないだろうか。実際に、私が店頭にいた頃、お客様から「あなたと同じメイクがしたい、どの商品を使っているのか」という声をよく頂いた。店舗にいるBAの存在自体が、“これを使ったらこうなる”という結果を体現しており、一番説得力のある広告媒体となる。消費者はBAを通じて美しくなった自分をイメージ出来るのである。

 BAは第一印象が全てである。

メラビアンの法則においては、人の第一印象が出会って3~5秒で決まり、情報の55%は視覚的に得られているという。BAのイメージはそのブランドの世界観を表し、消費者にとってのブランドイメージの構築に大きな影響を与えるため、その個性もブランドにより様々である。

老舗ブランドのKaneboの様に“夜会巻き”にスーツで、これぞ美容部員!、というブランドもあれば、MAC cosmeticsの様に、私服でハリウッドセレブをイメージさせる個性的なブランド。JILL STUUARTやANNA SUIなどファッションブランドから派生したブランドは制服もそのブランドデザイナーにより毎シーズンリニューアルされ、ブランドの世界観を強く表している。

私が所属していたブランドでは同じ商品を使っても、店舗にいるBA同士のメイクパターンが重ならないよう、勤務シフトによって色分けし、その日のテーマを決めていた。また、新商品を使いこなせるよう、閉店後遅くまでメイクの練習をするなど様々な工夫を行っていた。新製品の発売やキャンペーンの度に制服やアクセサリーを変える為、まさに生きたVMDと言える。

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ブランド毎に個性豊かな制服。左よりKanebo, MAC cosmetics、ANNA SUI cosmetics

消費者はBAによって、様々なサービスを受けることが出来る。

正しい商品の使い方はもちろん、肌診断などのカウンセリングや実際の商品のタッチアップ(BAによって実際の商品でメイクアップを施し、実際の色や質感を体験する事)などプロの技術の提供を受ける事が出来る。平日の夕方や、週末などの混み合う時間帯は、タッチアップやカウンセリング待ちの客で店舗内が一杯になることも多い。

shu uemuraで行われている独自のサービスとして、“Hard formula sharpening”があった。

販売したアイブローのペンシルを、無償で削る、というサービスである。この形が非常に変わっている。それは、素人には到底真似できない、なぎなた状に非常に平たく削るもので、使用面の長さは1.5cm、薄さは眉毛1本分、など非常に細かいルールがあり、正確に削れるようになるまでは、かなりの練習を必要とする。

つまりこのサービスはプロの技術の提供であり、同時にアイテムの商品価値をプロ仕様にまで高めることが出来る。消費者はプロの提案とプロの技により、自分にとって最適な商品を購入した、という満足感を得ることが出来る。

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shu uemuraにおけるHard formula sharpenigと完成品 写真:京王百貨店

変化する対象者心理

近年、@Cosmeをはじめとする、口コミサイトや“みんなのメイク“など動画投稿サイトの出現により消費者は簡単に情報収集が出来るようになった。対面販売でプロに教えてもらうという、受動的なスタイルから、自ら自分に合うものを見つけたい!、という主体的な女性が台頭してきた。資生堂の”ワタシプラス“などネットでカウンセリングを受けられるサービスもあり、BAによる対面の化粧品販売は利便性ではネットに適わないだろう。Source: Daily cosmetics news

しかし、ネットの情報が余りに氾濫しており、女性たちが混乱しているのも事実である。私がBAとして勤務していた頃も、実際に次のような声をお客様から聞いた。

「ブランドAではオイル洗顔が絶対、と言うのに対し、ある有名美容家は、水洗顔が一番!、と主張しているが、どちらが本当ですか?」とか「ブランドBではスキンケアは乳液から始めるべきだ、と言うのに対し、ブランドC は化粧水から、と言っている。私にはどちらが合っていますか?」という具合である。

女性たちは余りに多くの情報の中で、どの意見を信用して良いか分からない。とりわけメイクやスキンケアは個人差があり、決まった正解が無いため、日常で誰かに教えてもらえることを望んでいると思われる。

その為、女性たちにとっては、一階フロアでのカウンセリングによって得られる情報は、貴重、且つ稀少、なものである。彼女らが化粧品フロアに行くのは、今の自分より良くなりたい、新しい自分を見つけたい、と望むからであり、化粧品フロアはいわば、日常(現在)から非日常(未来)へと自分をスイッチできる可能性を持った場所なのである。BAは多くの情報の中から自分を正しい方向へナビゲートしてくれる存在であり、彼女らはその先に今までよりももっと自分らしい、より良い自分の姿を思い描くのである。

ネットで得られる情報はあくまで視覚的、聴覚的な情報である。それに対して化粧品フロアでは、実際のタッチアップ、カウンセリング、あるいはマッサージ等により、商品の使用感を実際に体感できる。この色をつけたら私の顔はこうなる、こんな質感で、こんな香りがする、というような感覚をライブで体験できるのだ。この“ライブ感”が店舗及びBAによってのみ提供できる価値ではないだろうか。このような特性を生かし、更に今後女性たちがより五感で楽しめるような売り場作りをすることにより、ネットとの差別化を図るだろう。

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Shu uemuraのつけまつげのみのコーナーTokyo lash bar 写真:Japan Times News, イヴ・サンローラン店舗で展開するデジタルプロモーション 写真:The Moodie report

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