近年、外食産業の間で、新規参入やメニュー拡張を行うなど「朝食」サービスに力を注ぐ店舗が多く見られるようになっている。
独身者や共働き世帯の増加、健康志向の高まりから、消費者の間にも、朝外食に対する関心が高まっているように思える。
確かに忙しい現代人の朝にとって、準備や片付けにかかる時間を考えれば朝外食は効率的ではある。
その一方で、こと学生の頃よりあまり朝食に関心が薄い私からすれば、眠りの時間を割いてまで、ましてや朝から外食を行うということは、重荷に思えて仕方が無い。
今、’ソトアサ族’ と呼ばれる朝外食消費者がなぜ増えつつあるのか、今回私は、最近注目の朝食店舗の中から、’世界一の朝食’ として連日行列が絶えないbills (表参道店)に足を運び、ソトアサ族動向を考察してみた。
8:15 東急プラザ(表参道)
ビジネスマンの足が最も重く感じられる週明けの月曜日かつ天候は生憎の雨という悪条件でありながら、8:20 頃到着した私の目の前には、既に目を輝かせながらも、淡々とした雰囲気で8:30 のオープンを待ちわびるソトアサ族の行列がそこにはあった。
8:20 bills オープン前
全体としては女性のお客が8割程を占めていたが、スーツを着た男性なども見られた。年齢層は、ほぼ20-30代であると見られる若い人達が主流であった。
若い女性のグループやカップル、小さい子供を連れたファミリー、単身男性など、幅広い客層が見られたが、表参道という土地柄からか、清潔感がありオシャレで品があるという共通した特徴が伺えた。
8:30 オープン
見た目だけでいえば、都内某お金持ちが在住している〇金のマダムを想像させるセレブな雰囲気が漂う人がいる一方で、遠方からの来訪なのか大きなキャリーバッグを持参している人も見られた。
店内は、明るくモダンな雰囲気でありながら、各席ごとの間隔は広く、目に入る高い障壁などがないため、ごみごみとした閉塞感を与えず開放的であり、リラックスをしながら食事を楽しむという店のコンセプト通り、窓からは新緑を眺められるなどゆったりと落ち着ける雰囲気を演出していた。
開放的な店内
また、店員一人一人の接客サービスも、清潔感がありながら、忙しない印象を与えないスマートな姿勢で、笑顔を絶やさない、言うなれば高級ホテルのメインダイニングの朝食に来たような、そんなおもてなしを受けた印象であった。
オープンから15分ほどで、108席もあるメインフロアはあっという間に満席となり、空席を待ちわびる人達で新たな行列が出来ていた。
店内には、友人や恋人、家族と何気ない会話を楽しむ人達や、単身にて来店した人たちは読書やパソコン画面に集中している人など、朝の8:30過ぎという時間でありながら、各々の時間を楽しんでいる様子が伺えた。
そこには、眠たく、気持ちが重く、後の時間を気にしながらの忙しない都会の平日の朝という情景は見受けられず、むしろ休日のお昼時のような時間を気にしない、時間が経つことを忘れてしまう、そのぐらいくつろいでいるような印象を受けた。
店員の親切な説明と嫌味を感じさせない推薦に心動かされ、’世界一の朝食’と称される、一番人気のスクランブルエッグがついた朝食プレートとエスプレッソを注文した。
朝食から2,000円はかなり高額ではあったが、塩と胡椒をベースとした全体的にしつこくなく薄めの味付けは、すっきりしたい朝にはふさわしく、少し濃いめのエスプレッソは、朝の眠気を吹き飛ばすなど、高級リゾートで迎える朝の様な上品な気分を感じさせた。
フルオージーブレックファスト
贅沢感の余韻に少々浸りながら、出社時間に合わせて会計を終えた9:30 頃の段階で、私が最初の退席志願者であった。
世間ではランチですら節約意識が高まっている中、Billsに訪れるソトアサ族のように、わざわざ足を運んでまで高いお金を出す人達とは、私には「優雅感を自ら演じる舞台」に立っている人に感じられた。
早く起きて、オシャレな雰囲気でオシャレな朝食を堪能することで、優雅で上品な自分を演出、演じ、非日常感を味わうことを目的としているものと思われる。
しかしながら、そこには、多くの虚構性を感じ取ってしまった。なぜなら実際に店舗に足を運んだ中で、疑問というべきか少々滑稽さを感じたからである。
● オープン前から並ぶこと
● 行列が出来ていると知りながら、読書やパソコンを優雅に楽しむこと
まず、本物の優雅な時間を味わいたい人達は、朝早く起きて並ぶことをなど絶対しないはずである。並ぶこと自体が優雅ではないためである。
また、行列が出来ていると知りながら、自分の時間に集中、浸れる感覚は理解しがたい。後続の人達のことを考えれば、ゆっくりとくつろぐ気にはなれないのが普通である。
そうしたことから、billsに訪れているソトアサ族からは、意地でも優雅な雰囲気を獲得、満喫しようとする「必死さ」を感じた。
それは、夢のひと時を求め、オープンから待ち並び、来訪者一人一人が夢の国の住人となり、園内では皆他人に優しい、いい人になってしまう某テーマパークと同様のものである。
そこにいる人々は、皆お互いをあたかも一流であるかのごとく錯覚し合い、圧倒され、触発されたいと思いながら、自分もその仲間の一員になっていると感じる、「共同幻想」に陥っているように思われる。
(誰も付き合ってくれないので)男一人で(平日しか時間が取れなかったので)出社鞄を掲げ、(絶対に座りたかったので)オープン前から並び、(二度と来ないと思っていたので)一番高い朝食を得て、(出社時間を気にして)誰より早く颯爽と会計を済まし店を後にした私は、「MBAを取って、外資系金融かコンサルで小生意気に働く、高給取りのバイリンエリート」に見られたに違いない。
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