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「神はトイレに宿る」
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調査事例

「神はトイレに宿る」

2014/03/28
REPORT

先日トイレに関する調査を行い、一般家庭にお邪魔しトイレに関して色々とお話をうかがう機会があった。中には「トイレは心の鏡」だという考えを持っている方や、「トイレには神様がいる」と親から教わり子供の頃から習慣的にトイレの掃除を念入りに行っているという方もいた。臭いや汚れさえなければ平気で掃除をさぼってしまう自分とは大違いだった。

よく外国人観光客が日本に来て最も驚いたのがトイレの綺麗さだったという話を耳にするが、確かに日本人のトイレに対する意識は非常に高いと実感した。

おそらくボットン便所の時代には、塞ぎきれない悪臭の問題であったり、落下事故であったり、トイレにまつわる恐怖とも言えるコンプレックスがあったのかもしれない。それ故、トイレの陰を陽に転換するために「トイレには神様がいる」という伝説などが生まれたのかもしれない。また、トイレの空間をより清潔に、より快適に保ちたいという気持ちはいくら努力をしても満たされることがなく、永遠の課題と言えるのかも知れない。

しかしこの課題に対する意識が高いが故に、日本独特のトイレ文化も生まれたと考えられる。

近年日本のトイレに関して世界的に注目されているのはウォシュレットを始めとする高機能トイレであるが、今回私はトイレそのものではなく、化粧室という空間全体の世界観に注目してみた。

そこで、新宿の主要なデパートにフォーカスし、化粧室からお店や売り場ごとの特色が見えないかと思い、デパートの化粧室をマーケティング視点で検証してみることにした。(注:筆者が女性であり今回は女性用化粧室しか見ることが出来なかったため、女性用化粧室から見た検証に限る。)視察したデパートは小田急百貨店、京王百貨店、新宿高島屋と新宿伊勢丹の4店舗である。

まずデパートごとに、化粧室の特徴についてまとめてみる。

小田急百貨店

◆ほぼ全てのフロアに2つの化粧室があり、一つは半階上った(下った)階層にあり、もう片方は同じ階層にある。

◆半階層の化粧室は2.5階~5.5階までがダークブラウンのシックでシンプルなスタイル。パウダールームがあるものとないものがある。

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◆ショッピングエリアと同階層の化粧室は(フロアにもよるが)更に濃いブラウンで落ち着いた大人な雰囲気

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◆ドライヤーまで備わっているところもある。

京王百貨店
◆写真各フロアに一箇所ずつ化粧室がある。

◆フロア毎に化粧室のデザインやレイアウトが異なりこだわりが見られる。

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◆しかし床のタイルは‘いかにもトイレ’といった雰囲気。

新宿高島屋
◆4階以上のフロアは全て同じ場所に同じレイアウト、同じデザインの化粧室があり統一感が見られる。

◆ トイレのコーナーと洗面所、パウダールームのコーナーがゆったりとスペースを取って設けられている。また個室も全て子供を連れて入れるほど広々とスペースが取られている。

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新宿伊勢丹
◆各フロアに半階上がった(下った)ところにある化粧室と、同じ階層にある化粧室がある。

◆ 階層の中間にある化粧室は清潔感とある程度の高級感はあるものの、薄いブラウンを基調としたシンプルなデザイン。

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◆ショッピングのフロアと同じ階層にある化粧室はフロアのテーマとの統一感が保たれている。

◆2階はIsetan girlなど比較的若い女性をターゲットとしたフロアであり、フロア全体の雰囲気も明るくカラフルな印象。丸い鏡やライト、球状のシャンデリアなどポップな装飾はフロアのイメージと統一感がある。

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◆3階はインターナショナルデザイナーズブランドが入っており、フロアの雰囲気に合わせて化粧室は白と黒を基調とし、縦にスラッと長いスタイリッシュなイメージで統一されている。

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◆4階はフォーマルウェアの他、ジュエリー等が売られておりラグジュアリーなフロアとなっている。そこの化粧室はキャラメルブラウンを基調とされており、過剰な装飾は一切なく落ち着いた大人な雰囲気。

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◆5階以上はライフスタイルやキッズフロアとなっており、化粧室は半階層の化粧室と似た、薄いブラウンのシンプルなデザインとなっている。

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さて、百貨店4店舗の化粧室を端から見て周り比較した結果、大きく二つの特色に気がついた。一点目は売り場から化粧室までの距離感に関して。そして二点目は店舗空間と化粧室の一体感に関してである。

まず一点目の売り場から化粧室までの距離感についてだが、特に高島屋が印象的だった。売り場からエレベーターホールを通過し、更に広く長い通路を通過し、その先にようやく化粧室があるという構造である。店の一番端に位置しているためそもそも化粧室までの距離があるのだが、ゴールにたどり着くまでには最後のとどめがあるというイメージだ。また、小田急百貨店や伊勢丹の半階層に設置された化粧室も、売り場から階段を上り下りしなければ辿り着けない構造で明らかに距離が保たれている。

次に二点目のポイントである、店舗空間と化粧室の一体感について考えてみよう。売り場と化粧室の間に距離が保たれている一方で、売り場と雰囲気を同じに保つことは買い物客の心理において非常に重要であると考えられる。買い物をしている最中に化粧室を利用し、それをきっかけにこれまでの買い物に対する興奮とモチベーションが下がってしまっては店として大問題だ。そこで、買い物の延長線上に化粧室があるようなさりげない存在感を作り上げることが、買い物のモチベーションを維持し続けるための鍵になるのかも知れない。

また、一体感の中にも二つのパターンが見受けられた。高島屋と小田急百貨店に関してはほとんどのフロアで一貫して化粧室が同じ、あるいは似たレイアウトとスタイルとなっている。つまり縦の統一感が維持されていると言える。

一方で伊勢丹や京王百貨店に関しては、全フロアを通した一貫性ではなくフロア内での一貫性が目立った。つまり横の統一感である。特に伊勢丹に私は感動した。半階層の化粧室はシンプルだが、売り場と同じ階層にある化粧室に関しては売り場と融合していると言えるほどの工夫が施されている。伊勢丹ではフロア毎に世界観が演出されており、その世界観を化粧室でも繰り広げているのだ。こういったところでも伊勢丹のVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)の強さを改めて実感できる。

ここまで売り場と化粧室の距離感と、売り場と化粧室の一体感という二つの相反するポイントが考慮されていると推察してきた。つまりこの二つのバランスをいかに保っていくかというのが百貨店としての空間作りに関わってくると考えられる。

最後に、今回百貨店の化粧室をじっくりと比較したことで見えてきた百貨店の個性についてもご紹介しよう。

まず小田急百貨店の化粧室は縦の一貫性(フロアを通して一貫性のあるスタイル)を持ちつつ、落ち着いたダークブラウンで重厚感を演出していることから、「我こそが新宿の王様だ」といった自信が見える気がした。小田急は、百貨店本館以外にもハルクやミロード等の商業施設も運営し、最も新宿駅と広く一体化しているからこそ、大きくドンと構える姿勢が化粧室に表われていると考えられる。

京王百貨店はというと、フロア毎にデザインやレイアウトを変える工夫を行ってはいるものの、昔ながらのタイル製の壁や床からは「いかにもトイレ」という雰囲気がにじみでている気がした。苦戦しているようなこの姿からは、京王百貨店が小田急百貨店に負けぬよう対抗している様子がうかがえる。

高島屋と伊勢丹はこの二つに比べて圧倒的にラグジュアリー感が増し、余裕が見受けられた。

高島屋の場合は何と言っても、優雅にスペースを使いシンプルにブラウンで全フロア統一された化粧室が印象的であった。更に、サザンテラスと高島屋をつなぐ木製の大きな橋と、高島屋の二階と駅をつなぐデッキからもこのイメージが共通している気がする。店の外から中の化粧室まで徹底的に統一されたこのイメージは、高島屋の企業メッセージでもある「変わらないのに、あたらしい」というメッセージをベースに築かれているのかも知れない。

そして伊勢丹の場合は、トレンドに合わせたVMDを行い変化するフロアの世界観に合わせて化粧室も進化してきた。化粧室に行くだけで何か得をしたような気持ちにさせてくれる空間は、まさに「ファッションの伊勢丹」ならではであり、「伊勢丹らしい独自の商品提案」という企業の姿勢を映し出しているようである。

恐らく、買い物中に化粧室についてここまで考える人はいないだろうが、トイレを見ればその店が分かる、ということが今回の発見であった。先日の調査でお会いした方がおっしゃった「トイレは心の鏡」という考え方は、家庭の話に限ったことではなく、商業施設においても言えることなのかも知れない。

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