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『ファストファションに次ぐファスト雑貨の登場』
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調査事例

『ファストファションに次ぐファスト雑貨の登場』

2014/04/11
REPORT

最近、ファッションの最先端である原宿の至る所で、長蛇の列を目にすることが頻繁にある。シカゴ発やシアトル発のポップコーンにシドニー発やハワイ発のパンケーキなど、海外勢が次々と原宿に進出しては、連日、入場するのに整理券を配るほどの人気ぶりを見せている。

同じエリアにある行列のできるお店の一つで、「ASOKO」というオシャレな雑貨ストアを半年ほど前からみかけるようになった。表参道にもASOKOと同じような雑貨店で「フライングタイガー」というコペンハーゲン発の雑貨店が出店されており、半年前にオープンして以来、今でも週末は整理券を配って入場するという状態になっているようである。

写真①ASOKO外観

 

ASOKOやフライングタイガーは、安くてオシャレでデザイン性の高い雑貨店として人気を呼んでいるようであるが、長時間並んでまで入ってみたいと思わせる人気の理由と、このような雑貨店の今後の展望を探っていきたいと思う。

安くてオシャレで高い品質・デザイン性という同じようなコンセプトを謳っているのが、ユニクロ、H&M、フォーエバー21などを代表とするファストファッションである。これらのファッションは2000年前半以降、次々に店舗数を増やし、今では若者の間ではすっかり定着している。そもそも、なぜこれらのファストファッションが流行し、定着したのだろうか。

ファストファッションが成功している要因として、まず時代背景だが、長引く不況の中、ここ10年、20代の非正規雇用が増加し、収入が不安定に感じる人が増えた。そのため、限られた可処分所得の中で、安くてもファッションを楽しめるといった「ファストファッション」に注目が集まったことは推測できる。

また、80年代前半以降に生まれた「バブル後世代」は嫌消費世代と呼ばれ、バブル世代の消費好きの世代とは異なり、収入に見合った消費をしない心理態度を持っている。先ほど述べた現状の不安定さに加え、バブル崩壊後の不安定な時代に生まれ育った人たちは、消費を控える傾向が強い。しかし、決して彼らはお金を全く使わないという断固した意識を持っているわけではなく、流行を取り入れたい気持ちもあるし、オシャレもしたいと思っている。バブル世代のような派手に繕うのではなく、無駄なくスマートな消費を求めているのである。

このような状況の中で、顧客に支持をされる企業とは、①価格訴求することで顧客の選択肢に取り上げられた企業、②付加価値をアピールし、顧客を喜ばせた企業なのである。

フォーエバー21やH&Mは、そのシーズンだけの流行ファッションを手頃な価格で提供し、贅沢品を買わなくてもその感覚を味わえるようにしている。例えば、H&Mは、最先端の流行を非日常でコーディネートできると思われており、フォーエバー21は、手の届くプチセレブをカスタムメードできると感じられている。つまりファストファッションは、“価格”に加えて付加価値としてプチ“幸福感”も提供しているのである。

私が、今回訪ねたASOKOやフライングタイガーもまさにファストファッションと同じように「安くておしゃれ+幸福感」を提供していることが覗える。

店に入ると、カラフルでデザイン性の高い商品が壁面や棚に多数並べられており、あれこれ手に取ってみたい気分にさせられる。商品をじっくり見てみると高級雑貨に使われているような材料ではないことがわかるが、そんなことは気にさせないほどのデザイン性の高さに感動するのである。値段はデザイン性からすると驚くほどの安さなので、価格を気にせずに商品を手にとっては次々に買い物かごに入れてしまう。

写真② 壁面デザイン1

写真③ 壁面デザイン2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※カラフルでデザイン性の高い商品が豊富に取り揃えられている。壁面をカラフルに飾るなど、ディスプレーにもインパクトがあり、買い物をしたくなる工夫がされている

 写真4 フライングタイガー

※フライングタイガー:内装は一見シンプルだが、カラフルな商品が多いため、それだけで明るい雰囲気になり、楽しい気分にさせてくれる。

店内を歩いていると、次々に安くてオシャレで目新しいデザインに出会い、驚きと感動を与えてくれ、非常にワクワクする気持ちにさせられた。まさに、安さの提供だけではなく、幸福感をも与えてくれるのである。

たとえすぐに飽きたり壊れたりしてもこの値段なので諦めがつくので躊躇いなく買うことができる。そもそも長期的に使用することをはじめから考えておらず、飽きればまた新たな流行を探し求めて、幸福感を満たしてもらえればいい。という具合に、ショッピングをしている時から次のショッピングのことを考えてしまうのも安さ以外の価値が仕掛けられているからであろう。

このようにエンターテイメントを楽しんでいる時のようなワクワクした気持ちは、ファストファッションでさえも感じられないファスト雑貨ならではの感情のように思える。それは、洋服よりも衝動買いしやすい雑貨の気軽さを活かした上で、カラフルさやオシャレといった楽しさが加わったことによりこのような気持ちが生まれるのだろう。

写真5 キャンプセット

※本日購入した商品:お買い上げ総額5000円。ついつい、お買い物が楽しくなり、普段購入しないものまで買ってしまいました。

これらの雑貨店と100円ショップとの違いだが、100円ショップの場合「これが100円で買えるのか」というような驚きはある。しかし、100円ショップでは、これらの雑貨店で味わえるほどの幸福感を感じることはできない。100円ショップは、あくまでも「自分のため」に買う店=「ご自宅用」であり、ある意味、これで十分という妥協や間に合わせ需要にこたえたもので、それ以上のものではない。

一方、これらの雑貨店は、自分のためだけではなく、誰かのためにも買うことができるのである。間に合わせ需要のために購入するのではなく、それらの雑貨を使用しているシーンや誰かが喜んでいる姿を想像して選んでいるので、ショッピングが非常に楽しくなるのである。楽しいひとときを共にできる雑貨を、ショッピング中も楽しめ、使用している時もまた楽しめるという「二度おいしい」を、衝動買いできる価格で提供しているのである。

という意味で、ASOKOやタイガーは、低価格で楽しめるエンターテイメントなのである。

今後、衣料品だけではなく、雑貨分野でも「安くておしゃれ」が常識になっていきそうである。市場には既に、ファストウェディング、ファストネイル、ファストファニチャーなど、低価格で楽しめるエンターテイメントが登場している。特に、ウェディングやネイルといったサービスは、安いだけでは売りにならないサービスである。いかに、安い値段で気軽に、幸福感やワクワク感を提供できるかが、これらの市場をリードしていく鍵となるであろうか。

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