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【ネットワーク社会に見られる、新たな消費欲求構造】~仮説②「欲求段階後退説」の検証~
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調査事例

【ネットワーク社会に見られる、新たな消費欲求構造】~仮説②「欲求段階後退説」の検証~

2013/12/13
REPORT

 ピラミッド2前回の投稿(2013/11/1 投稿)に引き続き、近年広まりつつある、他人に貢献するための消費行動である「Social消費」という新たな消費欲求をヒントに、心理学者マズローが唱える欲求五段階説とは異なる「新たな欲求段階説」の仮説を作りました。

  連載二回目の今回は「欲求段階後退仮説」を探究していきます。

 「欲求段階後退仮説」とは…

社会の発展段階が、第五段階層から第四段階層へと後退したと考える仮説です。

 何故現代の人々は「Social消費」に見られる「他人のために、お金を使用する」消費を行うようになったのでしょうか。そこには、「社会の分離化」いわば、人々の間で価値観が「多様化」したこと、すなわち従来日本が有していた共通の価値観が「崩壊」したことが起因しているものと思われます。

 終戦以降、高度経済成長の気運は人々に、右肩上がりの成長神話や土地神話、終身雇用、会社人間、滅私奉公、社会保障、学歴至上主義などの共通の価値観を与え、日本という「一つの社会」を形成していました。

 そのような社会の中で、産業構造が第一次、第二次、第三次と変化し、生活水準が向上した中で育った人々の間では、心理学者マズローが唱える欲求段階説の第一段階層(生理的欲求:生きていくための基本的・本能的な食べたい眠たい欲求)から第四段階層(尊厳欲求:他者から認められたい、尊敬されたい)における欲求はある程度満たされたと言われます。

 そして、人々はより高次な欲求を求め、欲求段階説における最終段階層である「自己実現」に重きを置くことになりました。そうした中で、従来多くの人々はこの自己実現を「働くこと」から成し得ようと、努めてきました。誰もが「一流企業での出世」などの社会的成功モデルを信じていたように、社会全体が「成長」を実感出来る時代において人々は、憧れや成功といった「希望」へ、ただ前向きに突き進むことに疑いの目を向けてはいなかったものと思われます。

 しかしながら、バブル崩壊後、失われた10年と呼ばれる長い不況時代に入り、若者を中心にそれまで共有され続けてきた価値観や社会的モラルが失われました。大量の倒産/リストラや終身雇用/年号序列の崩壊、高学歴化によるエリート・コースの希薄化は、従来最も身近であった「働くこと」によって得られるだろうと考えられていた自己実現への可能性を失望させたものと思われます。

 このように一つの社会としての共通価値観が崩壊した後、人々は個々が考える各々の価値観を基に社会は細分化されました。よく言えば、個々の価値観が多様化し、自由度が増したものと考えられます。

 しかしながら、自由度が増したことで、却って多くの人々は五里霧中の状態に陥ったものと思われます。「自由になったので何をしてもいいですよ…」と突然投げ出された人々は、何が良くて何が悪いのか、どうしたら評価が高くて、どうしたら批判されるのか、など目指すべく指針や基準がないために、不安になったり、悩んだり、動けなくなってしまったように思えます。

 この結果、若者の中には、社会で生きていく自信を持てない者や、自分が何をすべきか考えられない者、今はその時ではないとただ待ち望む者などが現れ、従来では考えられなかったフリーターやニートという存在を生み出したものと推測されます。

 そうした中で、困惑しながらも人々は、自身を一から見直し、細分化された個々の小さな世界の中で各々の欲求を満たすべく、新たな消費活動、いわば「個独消費」を行ってきたのではないかと思われます。

 このような個独消費の中で、人々は自身の欲求を一から追い求めて、マズローの欲求五段階説の第一段階層(生理的欲求)、第二段階層(安全の欲求)まではかつてと同様に駆け上がってきたように思えます。

 その後、人々が社会的欲求(集団に属したり、仲間から愛情が得たい)である第三段階層へと到達した頃、従来とは少し異なる兆候が見え始めました。それは、社会が細分化されたことによって、人々は個々の小さな世界同士での限られた範囲いわば、共通する個独消費の付き合いの中で、社会的欲求を満たすようになったことです。

 このように第三段階層までは、仲の良い知人友人だけの付き合いによる狭い範囲での交流の中でも、欲求は満たされていたように思われます。

 そうした中、人々は現在、マズローの欲求五段階説の四段階層に当たる「尊厳欲求」へと再度たどり着いたものの、人々は限られたコミュニティ内からの承認だけでは物足りなさを感じ、尊厳欲求を十分に満たすことが出来なかったものと思われます。

 それ故に、現在の第四段階層に到達した人々は、限られたコミュニティ内の承認だけでなく、より社会的な広い承認を獲得するための手段として、「他人への消費」を行うようになったのではないでしょうか。それは、かつての他人から認められるための自己投資とは異なる、’Socialな承認’を得るための’Socialな消費活動’と言えます。

 このことは、従来は、家庭や職場、地域、友人などの自身の生活圏内で容易に満たされていた他者からの承認が、現在の孤立した日常では得られにくくなったためだと考えられます。

 他人のために尽くし、他人に認められるための「利他消費」は、価値共通社会が後退し、細分化された個と個が非常に細い糸で繋がっている現代のネットワーク社会において、再び求められることとなった新たな消費の姿であるものと思われます。

 更に、人々の間で、このような「社会的尊厳欲求」が満たされた後、再び求められることが推測される今度の自己実現は、かつての「利潤追求の自己実現」とは異なった欲求の姿であるものと考えられます。

 近年、社会に貢献するための活躍を望む「社会的起業家」の台頭は、社会的尊厳欲求を満たした人々が到達した新たな欲求の最終段階層である、「社会性を要する自己実現欲求」の表れなのかもしれません。

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